研究課題
研究最終年度である今年度は、第一に、ハウスダストマイト(HDM)由来アレルゲンが、腸上皮バリア機能が低下した慢性腸症の犬の腸粘膜内に存在するか否かを検証した。健常犬および慢性腸症の犬から、内視鏡生検により十二指腸粘膜および結腸粘膜を採取し、HDMアレルゲンであるDer p1濃度を初年度に確立した高感度ELISA系により測定した。その結果、十二指腸粘膜および結腸粘膜内において検出されたDer p1濃度は、健常犬に比べ慢性腸症の犬において有意に高かった。次に、研究二年目で明らかにしたHDMアレルゲンによるマクロファージからのIL-1beta産生誘導能のメカニズムを解析するため、IL-1betaの発現に必要なNLRP3インフラマソームの関与を解析した。その結果、対照群に比べ、HDMアレルゲンで刺激したマクロファージにおいてNLRP3遺伝子発現量が有意に増加していた。さらにこの効果は、システインプロテアーゼ阻害剤やLPS阻害剤により影響されず、セリンプロテアーゼ阻害剤により減少することから、HDMに含有されるセリンプロテアーゼの作用により、マクロファージにおけるNLRP3インフラマソームの活性化が誘導される可能性が考えられた。本研究で得られた成果により、環境アレルゲンであるHDMは、健常犬および慢性腸症の犬を含め、家庭で飼育されている犬に幅広く経口摂取されるが、腸上皮バリア機能が減弱した慢性腸症の犬の腸粘膜では、HDMアレルゲンが腸粘膜内に侵入し、腸粘膜に存在するマクロファージのNLRP3インフラマソームを活性化することでIL-1betaの産生を誘導する可能性が明らかになった。本研究により、HDMが慢性腸症の犬の消化管において、自然免疫系を活性化することで慢性的な腸炎を発症させる新たな病態が明らかになった。
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J Vet Med Sci
巻: 81 ページ: 1680-1684
10.1292/jvms.18-0756.