本年度は,犬の血管肉腫由来腫瘍細胞株に対して強いアポトーシス誘導効果が見られた抗腫瘍サイトカインTumor necrosis factor-related apoptosis inducing ligand (TRAIL) のより幅広い種類の腫瘍への適用を目指し,臨床的に遭遇する機会が多く,良性から高度な悪性を示すものまで様々な臨床動態を呈する犬の乳腺腫瘍への適用を想定し,犬の乳腺上皮性腫瘍から細胞株を作出し,それらを用い,アポトーシス誘導作用を評価した。 前年度までの研究成果より犬の血管肉腫細胞株に対し,最も効果のあった三量体形成しやすくしたisoleucine-zipper TRAIL(izTRAIL)の作用について評価するために,犬の乳腺腫瘍から乳腺上皮性腫瘍由来細胞株を新しく3株作出した。続いて,これらの3つの細胞株では,izTRAILの添加によって細胞生存率が低下し,Annexin V陽性/ Propidium Iodide陰性細胞および核の断片化した細胞の増加が確認された。さらにウェスタンブロット法で,caspase (Casp)-8およびCasp-3の活性化が見られ,Casp-3の基質であるpolyclonal anti-Poly (ADP-ribose) polymeraseの分解がみられることを見出した。 以上よりizTRAILは,犬血管肉腫細胞株と同様に,犬乳腺上皮性腫瘍由来株に対してもCasp-8を介したアポトーシスを誘導することを明らかにした。 本研究において,犬乳腺上皮性腫瘍由来細胞株に対してizTRAILによりアポトーシスが誘導されることを見出し,獣医領域での腫瘍の治療におけるTRAILの広い適用の可能性を示した。
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