ワクモは鳥類を主な宿主とする吸血性の外部寄生虫である。養鶏産業ではワクモ防除に様々な殺ダニ剤が用いられるが、薬剤抵抗性ワクモの出現が問題になっている。本研究ではワクモの薬剤抵抗性機構解明のため、様々な薬剤標的分子の抵抗性化に伴う変異同定と変異検出の遺伝子診断技術の確立および薬剤に代わる新たなワクモ防除技術として期待されるワクチン候補分子の評価を行った。 最終年度では、主に昆虫成長制御剤の主成分であるエトキサゾールについて、ワクモでの標的分子を同定、抵抗性化との関連が推察される塩基およびアミノ酸変異の解明と変異検出のための遺伝子診断技術に道を拓いた。また、ピレスロイド系薬剤の標的である電位依存性ナトリウムチャネルについても同様の技術を確立した。 研究期間全体では、ワクモ防除に用いられるピレスロイド、カーバメイトおよび有機リン系薬剤の標的分子についても抵抗性に関与する変異検出技術を確立した。薬剤使用時には事前の感受性評価と有効な薬剤の選択が重要だが、生きたワクモの薬剤暴露による現行の受性試験は信頼性が高い一方、一般の試験機関での実施には困難なことも多く、その普及は十分ではない。本研究で確立した遺伝子診断技術は、一般の試験機関でも実施が容易で、比較的短時間で結果が得られるなど実用性が高く、現行の感受性試験を補完する新たな技術として極めて有用と考えられた。本研究ではさらに、ワクモの代謝性耐性機構解明のため,薬剤代謝に関与するワクモのグルタチオンS-トランスフェラーゼおよびシトクロムP450と相同性を示す配列の存在を示した。また、ワクモ防除のワクチン標的分子の探索で、節足動物の中腸に分布し消化等に重要なperitrophic matrix protein(PMP)様分子免疫ニワトリの血液を給与したワクモに、限定的ながら生存率の低下が認められ、ワクチンとしての可能性を示した。
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