研究課題
熱ショックタンパク質(Heat shock protein: HSP)は、分子シャペロンとして、細胞の生存に関わっている。HSPファミリーの1つであるHSP70は腫瘍細胞において強発現し、腫瘍細胞の生存や腫瘍組織の増大に関連していることが報告されている。また、HSP70は腫瘍細胞内の様々なタンパク質と結合し、細胞外へ放出されることが明らかとなってきており、腫瘍診断マーカーや腫瘍免疫療法への応用が期待されている。HSP70と他のタンパク質との複合体は、抗原提示細胞の細胞膜に結合し、細胞性免疫を賦活化することから、HSP70に結合する抗原タンパク質は強力な腫瘍免疫反応を誘導できる可能性がある。本研究ではこれまでに、イヌの乳腺腫瘍におけるHSP70の機能について検討するため、HSP70ノックダウン犬乳腺腫瘍細胞株を樹立した。その結果、ノックダウン細胞株では、細胞増殖活性が有意に低下し、さらにドキソルビシンによるアポトーシス誘導が促進される傾向が認められた。さらにcDNAマイクロアレイにより、HSP70ノックダウンにより影響を受ける遺伝子群を同定した。組換えイヌHSP70タンパク質を作製し、それを抗原としたウサギポリクローナル抗体を作製した。ポリクローナル抗体を用いて、イヌの乳腺腫瘍組織におけるHSP70の発現について免疫組織化学により解析を行った。さらに、組換えイヌHSP70タンパク質とイヌの乳腺腫瘍のライセートを用いた共免疫沈降法により、HSP70に結合するタンパク質の同定を試みたところ、これまでに細胞分裂に関連するcyclinB1、細胞骨格タンパクであるvimentin、myosin-9、actinを同定した。特に細胞分裂に関連するcyclinB1に着目し、組換えタンパク質を作製し、イヌHSP70との結合性を確認中である。
3: やや遅れている
2018年12月から2019年9月まで米国留学により、その期間において研究を中断する必要があったため。
令和2年度は、イヌHSP70タンパク質との共免疫沈降で結合タンパク質として同定されたcyclinB1の組換えタンパク質を作製するとともに、イヌHSP70との結合性を再度確認する。すなわち、抗GST抗体を用いたウエスタンブロンティングを実施することにより、複合体が検出されるかどうかを確認する。また、イヌの末梢血単核球より分化させた樹状細胞をHSP70-腫瘍抗原複合体によって刺激し、抗原特異的細胞傷害性T細胞を誘導できるかどうかを検討する。イヌの乳腺腫瘍細胞株に対して、細胞傷害性T細胞による細胞死滅効果が得られたHSP70との複合体は腫瘍免疫賦活化分子として期待できる。
海外留学期間に研究を中断したことにより、当初の予定よりも研究課題の進行に遅れが生じている。また、HSP70複合体による樹状細胞刺激の実験が未実施であり、消耗品の購入が減少した。次年度はこれらの実験を進める上で、本年度の余剰分と合わせて執行予定である。
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