研究課題/領域番号 |
17K08116
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
根尾 櫻子 麻布大学, 獣医学部, 講師 (50532107)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 3Dプリンター / 人工肝組織 / 犬 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、3Dプリンターでイヌの立体人工肝臓を構築することである。これまで我々は、生体外で長期間培養できる肝細胞の作製を試みてきた。しかしながら、肝細胞は単層で培養すると、本来の薬物代謝能を発揮できないばかりでなく、わずか数日しか生存維持ができない。そこで、本研究では3Dプリンター技術を用いて、薬物代謝能を持った生体外肝組織の構築を目指すことを最終目標とした。この目標を達成するためには、具体的な手法として、肝細胞やiPSを細胞ソースとして約500ミクロンの細胞凝集塊を作成し、凝集塊を3Dプリンター技術を用いて積層し、3次元構造を作成するという方法の検討が必要である。 平成29年度は、細胞ソースとして肝がん細胞を用い、凝集塊作製のためには、犬肝がん細胞:1.0×10~4/well, ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC):0.5×10~4/well, イヌ間葉系幹細胞(MSC):3.0×10~4/wellでの共培養が最適であると考えられた。この条件をもとに、30年度は、細胞ソースを犬初代肝細胞(cHep)に変更し、3次元化する際に最適な球形細胞凝集塊の形成を試みた。その結果、cHep 1.0×10^4/well; HUVEC 0.7×10^4/well MSC 1.0×10^4/wellで混合した時に最も凝集塊が球形に近い形態を示した。そこで、この凝集塊を3Dプリンターを用いて積層した後、肝細胞、細胞凝集塊、人工肝組織に関して、Real time PCRにてアルブミン、CYP2E1、CYP3A12の発現を比較検討し、さらに3次元構造の組織切片を作成し、HE染色を行った。その結果、凝集塊の状態で、アルブミン、CYP2E1、CYP3A12の発現は見られるものの、肝細胞よりも発現が低下し、3次元構造では発現が認められなかった。3次元構造のHE染色では細胞死を呈する細胞が多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在の問題点は、犬の初代肝細胞を細胞ソースとした場合に、細胞凝集塊の時点で肝細胞よりもアルブミン、CYP2E1、CYP3A12の発現が低下し、さらに3次元構造では生存する肝細胞数が少ないところである。研究の過程で、細胞を共培養する際に、MSCの比率を上げるとスフェロイドの形成能は高まり、球形の凝集塊が得られる利点があるものの、凝集塊の中の肝細胞の生存率が下がる重大な欠点があることも分かった。MSCの比率を下げると、肝細胞の生存率は上がるが、反面、凝集塊の球形が保てない。凝集塊が球形でない場合、3Dプリンターにおける積層に時間を要し、この時点で細胞の生存率が下がる可能性が考えられる。 さらに、先行研究(Yanagi Y, 2017)における報告では、肝細胞が肝臓構造体の周囲にありHUVECやMSCが中心に集まるとあったが、本研究では肝細胞を取り囲むようにしてMSCが存在した。このことに関しては、人の細胞と犬の細胞の性質の違いなのか、それとも培養条件が原因であるかは不明である。しかし、肝細胞がMSCにとり囲まれた状態では、肝細胞への酸素および供給が低下し、細胞死に至る可能性が高まる。 今後は、共培養の細胞の割合の検討に加えて、肝細胞用培地の割合を増やすなどの培地を混合する割合の検討、増殖因子の組み合わせの決定を行うことが、問題を解決する糸口であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、初代肝細胞、HUVEC、MSCおよび各細胞に適した培地を混合する割合を決定すルことに加えて、現在使用しているHGFの他、bFGFを加える、またサイトカイン (IL1, 6など)を加えることで、500ミクロンの球形細胞凝集塊を作成できる最適培養条件を整える。同時に、現在取り組んでいる皮膚線維芽細胞に、ダイレクトリプログラミングを施して作製した肝様細胞から細胞凝集塊が形成できるか、また骨髄由来間葉系幹細胞にもダイレクトリプログラミングを検討し、最終目標である「犬体性幹細胞や犬iPS細胞から分化誘導した肝細胞様細胞をソースとした薬物代謝が可能な人工肝組織」の作製に近づくための検討を開始する予定である。 作成した細胞凝集塊は、平成30年度と同様に、アルブミンに加えて、犬で報告されているCYP(CYP2E1、CYP3A12など)の発現を定量的PCRと免疫染色にて確認し、HE染色では形態観察(細胞配列の確認および細胞生存の確認)を行う。また、3次元構造(人工肝組織)に関しては、肝代謝を受ける薬物(ミタゾラム、フェノバルビタール、アセトアミノフェンなど)を人工肝に投与し、薬物動態をみる。 今後順調に研究が進めば、犬人工肝組織は、創薬の毒性試験に応用が期待でき、動物実験代替法ともなる。「動物実験数の大幅削減」を求める現代社会の動きに対応するだけでなく、「信頼性の高い薬物動態や毒性試験の結果が求められる」という難題に直面している医学・創薬および獣医学研究における有力な解決策の一つになることを目標にして研究を遂行したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
生じた残額に関しては、遺伝子関連試薬を購入するためには足りなかったため、残額とし、次年度にまとめて適切に使用することにした。
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