研究課題/領域番号 |
17K08120
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
中牟田 祥子 岩手大学, 農学部, 特任研究員 (70724532)
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研究分担者 |
谷口 和美 北里大学, 獣医学部, 准教授 (00171843)
横須賀 誠 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (90280776)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 嗅覚系 / カメ / 爬虫類 / in situ ハイブリダイゼーション / 嗅上皮 / 鋤鼻器 / 嗅覚器 |
研究実績の概要 |
本研究は、水生、陸生、半水生のカメについて、嗅覚系の発生過程における遺伝子や遺伝子産物の発現を解析し、カメと他の動物との間で、さらにカメ同士の間でそれらを比較することによって、生息環境に応じた嗅覚系の多様性が生じるメカニズムの解明を目指している。 転写因子 Fezf1 (Fez family zinc finger protein 1)およびFezf2は、マウス胚嗅覚器において嗅上皮および鋤鼻器の正常な発達に不可欠であり、Fezf1は嗅上皮、Fezf2は鋤鼻器に発現する(Ecklerら、2011)。29年度は、半水生カメのスッポンとミシシッピーアカミミガメ、陸生カメのケヅメリクガメの胚嗅覚器におけるFezf1とFezf2の発現をin situ ハイブリダイゼーションにより解析し、3種のカメに共通して上憩室上皮は鼻窩背側部に由来し、下憩室上皮は鼻窩腹内側部に由来すること、また、3種のカメ胚に共通して、Fezf1は上憩室と下憩室両方の嗅細胞に発現し、Fezf2は下憩室上皮の支持細胞に発現すること等を明らかにした。これらの結果は、半水生と陸生のカメの上憩室上皮は哺乳類の嗅上皮に似ているが、下憩室上皮は哺乳類の嗅上皮と鋤鼻器両方の性質を併せ持つことを示唆する。 さらに29年度は、嗅覚器の発生に関わるFezf1とFezf2の機能が、これまでに報告されているマウスやカメ以外の動物でも保存されているか確かめる目的で、カメと近縁で鋤鼻器を欠き嗅上皮だけをもつニワトリの胚嗅覚器におけるFezf1とFezf2の発現も解析し、ほぼすべての嗅細胞がFezf1を発現し、Fezf2の発現は見られないことを明らかにした。この結果は、鋤鼻器のない動物の嗅覚器の発生にFezf1は必要だがFezf2は必要でないことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、29年度はスッポン胚において、30年度にアカミミガメとケヅメリクガメの胚においてそれぞれ、嗅覚系の形態や機能を決定する分子基盤をin situ ハイブリダイゼーションや免疫組織化学で解析する予定だった。実際は29年度末までに、スッポン、アカミミガメ、ケヅメリクガメ胚におけるFezf1とFezf2のin situ ハイブリダイゼーション解析がほぼ完了した。また、カメ胚で得られた結果との比較の目的で、カメと近縁で鋤鼻器を持たないニワトリ胚で同様のin situ ハイブリダイゼーション解析を行うことができた。しかし一方で免疫組織化学的解析については、29年度は予備実験的に、市販の一次抗体についてカメにおける交差反応性を確認するにとどまった。全体的にみるとおおむね順調に進展し、最終的には計画通りの実験データを得られる見込みが立っている。
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今後の研究の推進方策 |
30年度はスッポン、アカミミガメ、ケヅメリクガメ胚において、ニューロンマーカーや嗅神経鞘細胞マーカーを用いた免疫組織化学を重点的に行う。さらに、完全水生のカメ胚について、in situ ハイブリダイゼーションおよび免疫組織化学的解析を行う。以上のデータを統合し、哺乳類とカメの間、水生・陸生・半水生のカメの間で嗅覚系の発生メカニズムに関する共通点と相違点を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度にスッポン胚嗅覚器組織で行う予定だった免疫組織化学については、一次抗体の交差反応性を確認するための予備実験を行うにとどまったため、29年度には免疫組織化学に必要な試薬や物品の購入が予定を下回った。30年度はスッポン、アカミミガメ、ケヅメリクガメおよび完全水生のカメの胚において免疫組織化学的解析を重点的に進めていくため、そのために必要な試薬や物品の購入に充てる。
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