研究課題/領域番号 |
17K08122
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
椎名 貴彦 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (90362178)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 食道 / 横紋筋 / 平滑筋 / カリウムチャネル / プリン受容体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ほ乳類の食道横紋筋運動における中枢および末梢における制御機構の全貌を解明することである。ほ乳類の食道筋層は、小腸や大腸と異なり、一部または全長にわたって横紋筋で構成されている。食道横紋筋は「=骨格筋」とみなされている。実際、運動制御に関わる因子は骨格筋と共通している。一方、食道は摂取した食物を胃まで運搬する役割を持つことから、食道横紋筋も小腸や大腸の平滑筋と同様に蠕動運動を担っている。蠕動運動は、筋の収縮のみならず、適切な弛緩も必要とすることから、「収縮」とともに「弛緩(収縮の抑制)」する制御機構の解明は重要である。食道以外の消化管(胃、小腸、大腸)では、中枢性制御に加えて、内在神経系やカハール介在細胞などによる末梢性(局所)制御が発達している。そこで本研究では、(1)中枢性制御機構の解明のため、中枢を含む丸ごと動物を用いたin vivo実験系を用いた実験を行う。また、(2)末梢での制御を解明するため、摘出標本によるin vitro試験を実施する。平成30年度の実績として、(1)に相当するものとして、食道横紋筋運動の制御に関与する中枢レベルの新規因子の解明のため、新たなin vivo実験系を確立した。この実験系は、ウレタンで麻酔したラットの食道内腔に液体を満たし、食道運動を制御する迷走神経を電気刺激するというものである。この実験系の確立により、中枢性制御と末梢性制御の相互作用の解析が可能となった。一方、(2)として、ラットから食道を摘出して、in vitroで食道運動を記録し、食道筋の収縮反応を解析した。昨年度までに明らかにしたプリン作動系シグナルについて、関与する受容体と制御機構のより詳細な解析を行った。その結果、P2Y受容体の関与が示唆された。また、食道横紋筋運動の制御に関わるカリウムチャネルのサブタイプを同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30度は、前年度の研究成果を踏まえて、以下のような実験を行ない、一定の成果を得た。 (1)食道横紋筋運動の制御因子の解明のための新たなin vivo実験系の確立:ウレタンで麻酔したラットの食道内腔に液体を満たし、圧トランスデューサーに接続した。食道運動を制御する迷走神経を電気刺激し、食道横紋筋を収縮させた。食道内圧の変化を指標にして、in vivoで食道横紋筋運動を評価するという実験系を確立した。この実験系の確立により、中枢性制御と末梢性制御の相互作用の解析が可能となった。 (2)食道横紋筋運動の制御に関与するプリン作動系機構の解明:ラットから食道を摘出して、オルガンバスにセットし、in vitroで食道運動を記録した。迷走神経あるいは横紋筋そのものを電気刺激することによって生じる食道横紋筋の収縮反応を解析した。また、電気刺激あるいは薬物投与により平滑筋の運動についても解析を行なった。これらの反応が生理活性物質やそれらの受容体の阻害薬を投与して、関与する受容体と制御機構のより詳細な解析を行った。これらの実験により、ATPを伝達物質とするプリン作動性シグナルが食道運動に関与していることを明らかにした。さらに、そこにはP2Y受容体が関与していることが示唆された。 (3)食道横紋筋運動の制御におけるカリウムチャネルの解明:(2)と同様に、in vitro実験系を用いて実験を行なった。カリウムチャネルには多様なサブタイプが存在する。それらの開口薬や閉鎖薬を投与して、食道横紋筋運動がどのように変化するかを調べた。その結果、食道横紋筋運動に関わるカリウムチャネルのサブタイプを同定した。 これらの成果は、食道横紋筋運動における中枢および末梢における制御機構の全貌を解明する上で重要な知見といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、前年度の成果を踏まえて、さらに食道横紋筋運動の制御に関与する中枢および末梢性の制御因子を明らかにすることを目指す。 (1)中枢レベルの因子の検索は、中枢を含む丸ごと動物を用いたin vivo実験系を使用する。また、末梢レベルに関する試験は、中枢の影響を除外して行う必要があるため、摘出標本を用いたin vitro実験系で実施する。 (2)新たに確立したin vivo実験系を用いて、これまで明らかにしてきた中枢性制御因子と末梢性の因子との相互作用について解析を行う。 (3)これまで生理学的あるいは薬理学的に明らかにしてきた、食道横紋筋運動に関与する中枢性および末梢性制御因子について、分子レベルでの解析を行う。免疫染色やin situ Hybridizationといった組織学的手法や、ウエスタンブロッティングやRT-PCRといった生化学・分子生物学的手法により、解析を行う。 (4)最終年度にあたるため、研究成果のまとめを実施し、論文や学会発表により、研究成果の社会への還元を積極的に行う。
|