研究課題/領域番号 |
17K08124
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
井田 隆徳 宮崎大学, 産業動物防疫リサーチセンター, 准教授 (00381088)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 生理活性ペプチド / オーファン受容体 / モデル生物 / NPY |
研究実績の概要 |
食欲は生命維持に必要なエネルギー摂取のためのもっとも基本的な生命活動であり、食欲制御中枢と末梢組織の臓器間クロストークにより複雑かつ巧妙に調節されている。脊椎、無脊椎問わず動物において食欲は本能行動の中でも特に重要であり、その調節メカニズムを解明しコントロールすることが出来れば、人での創薬はもちろん、家畜、養殖魚類や有用昆虫の効率的育成、害虫の駆除などに応用でき非常に意義深い。近年、食欲を調節する因子として、生体内に存在する生理活性ペプチドが注目されている。ホ乳類における摂食調節機構の解明はニューロペプチドYファミリーペプチドを中心として詳細に検討されている。しかし未だその全貌は明らかになっていない。これは高等生物の複雑な身体構造に起因していると考えられる。そこで申請者は、シンプルな構造を有しているモデル生物に注目し、ショウジョウバエにおいて新規NPY様ペプチドdRYamide-1、dRYamide-2、線虫においてLURY-1-1、LURY-1-2を発見した。次に、これら新規生理活性ペプチドの機能、特に摂食調節機構について検討した。その結果、両新規生理活性ペプチドとも、ショウジョウバエ、線虫において、摂食行動を抑制し、様々な生命現象に影響を及ぼしている事を見出した。具体的には線虫において、LURY-1 は咽頭という餌を取り込む喉の器官にある3 つの神経にだけ発現しており、餌が多く咽頭が活発に活動しているときに全身に向けて分泌されることが分かった。分泌されたLURY-1 は、1)摂食を抑制、2)産卵を促進、3)動き回る行動を抑制、4)寿命を延長という、多様な作用を持っていた。また最近、この受容体に類似した蚊の受容体を調節することによって、吸血の抑制が行われていることが報告された。申請者のペプチドがこの蚊の受容体に作用するか検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに線虫LURY-1について、またクルマエビにおけるdRYamideについて論文にて報告した。最近、これらのペプチドが作用する受容体に類似した蚊の受容体NPYLR7Aに作用する小分子が蚊の吸血を抑制し、産卵を促している可能性があると報告された。これは線虫LURY-1の機能とかなり類似していると思われる。蚊ではまだ、NPYLR7Aに対する内在性のリガンドは同定されていないので、現在、この受容体発現細胞を作成し、dRYamideやLURY-1が作用するかどうかの検討、さらに蚊の内在性のペプチドの同定を勧めている。我々の論文が契機となり、蚊の吸血機構のメカニズムが明らかになれば画期的である。またショウジョウバエや線虫などのモデル生物におけるさらなる新規生理活性ペプチドの探索を続けているが、受容体の最適化により、これまでみえていなかった活性をいくつかで検出しており、現在、精製を進めている。このように研究はおおむね順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
dRYamide, LURY-1についてさらに機能解析を進めていく。申請者が発見した別のショウジョウバエ新規生理活性ペプチドCCHamideについて岡山大学、吉井准教授が体内時計との関連を明らかにし、報告した。次にdRYamide, LURY-1が体内時計の調節に関与しているか検討中である。また昨年度から続けているオオサシガメなどの他の昆虫におけるこれらペプチドの役割を明らかにし、感染症予防対策にいかせないか、研究を進めていく。特に、蚊のNPYLR7A受容体については、蚊の吸血をコントロールできる可能性があり、その内在性リガンドの早急な解明が急がれる。さらに、申請者が新しく開発した生理活性ペプチド抽出のテクニックを応用し、モデル生物において、一つでも多くの新規生理活性ペプチドを発見し、応用研究へと展開していきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究補助で雇用していた補助員が体調不良で予定より早期に退職したため、人件費と物品費に若干余剰が生じた。2019年度に繰り越し、新しい補助員を雇用し、効率的に研究を勧め行く予定である。
|