研究実績の概要 |
脂肪組織由来間葉系幹細胞(ASC)は、他の間葉系幹細胞と比較して増殖速度が早く、採取時の侵襲性が低いことから注目を集めている。これまで、イヌ及びラットのASCを、ヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を有するバルプロ酸(VPA)で処理すると、その後の神経分化を著しく促進することを報告してきた(Kurihara et al., 2014; Okubo et al., 2016)。しかしながら、VPAによる神経分化の促進機序には不明な点が残っている。VPAが、ASCの神経分化を著しく促進する機序に一酸化窒素(NO)によるタンパク質の修飾であるS-ニトロシル化(SNO)が関与している可能性について検討した。 ラットの皮下組織から脂肪組織を採取し、既報に従いASCを分離した。タンパク質のS-ニトロシル化(SNO)をビオチンスイッチ法により検出した。 VPA処置後の神経分化誘導により、タンパク質のS-ニトロシル化が有意に亢進していることが明らかになった。分化誘導したTubb3陽性の神経細胞は同時にS-ニトロシル化陽性であった。タンパク質のS-ニトロシル化は、チオレドキシン(Trx-1)により脱ニトロシル化され、同時にTrx-1は不活化される。不活化されたTrx-1は、チオレドキシン還元酵素(TrxR)により活性化される。神経分化誘導時にTrxR阻害剤Auranofin(AUR)で併用処理すると、AUR濃度依存的にTubb3陽性の神経細胞が増加し、この細胞のたんぱく質はSNO化されていた。さらに、処理したAUR濃度依存的に神経細胞マーカーTubb3, Nefm, Map2の遺伝子発現の増加が観察された。これらのことから、VPAによるラットASCの神経分化の著しい促進には、VPAにより産生誘導されるNOによるタンパク質のS-ニトロシル化が関与していることが示唆された。
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