昨年度までの検討によって、受精が起こる頃のマウス卵管内には卵管液が活発に分泌されていて、分泌された卵管液は狭部上部の蠕動によって膨大部方向に継続的にくみ出されていることや、精子はその卵管液の流れにのって卵子の待つ膨大部に輸送されていることが明らかとなった。本年度は、卵巣ホルモンやその拮抗剤が、卵管液の分泌や卵管液の流れ、ならびに精子の移動や受精に及ぼす影響を調査した。 実験には排卵誘発したICR雌マウスを使用した。卵巣ホルモンはエストロゲン(E2)とプロゲステロン(P4)、その拮抗剤としてタモキシフェンとミフェプリストンをそれぞれ使用した。これら薬剤をゴマ油に0.1~1mg/mL濃度で溶かしてから、hCG投与直後と12時間後の2回、雌マウスの皮下に0.1mLづつ投与した。 各種ホルモン・拮抗剤で処理した雌マウスの卵管における卵管液の分泌量を測定したところ、E2を投与した雌マウスにおいて卵管液分泌量の増加が確認された。卵管液の流れ、すなわち狭部下部から膨大部に向かう卵管液の速度は、ミフェプリストンを投与した卵管で低下した。各種ホルモン・拮抗剤で処理した雌マウスに人工授精を施し、6時間後に、膨大部の精子数と卵子の受精率を調べたところ、E2を投与した雌マウスで精子数と受精率が著しく減少した。一方、ミフェプリストンやタモキシフェンを投与した雌マウスでは、膨大部の精子数は増加し、一部の卵子では多精子が確認された。 以上の結果から、卵管内における卵管液の分泌やその流れ、精子の移動や受精が卵巣ホルモンによって制御されている可能性が示唆された。
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