本研究課題では胚の細胞小器官の機能と発生能の関係に着目し、マウスの受精胚の体外培養において薬剤による細胞小器官の機能変化を誘導し発生におよぼす影響を明らかにし、これらの結果をもとに体外培養において細胞小器官の機能の最適化を行うことで胚の発生能を最大限に引き出す「機能性胚培養液」の開発を行うものである。平成29年度は、体外成熟(IVM)由来胚を用いて小胞体ストレス抑制効果が知られている化学シャペロンTUDCA(タウロウルソデオキシコール酸)の最適処理濃度と処理時間を検討し、胚の発生に最適な条件を見出すことができ、出産率を向上させることに成功した。平成30年度は、ミトコンドリアの機能不全を起こした胚の発生率低下を克服する培養液の開発を行った。呼吸鎖複合体の阻害剤ロテノンを用いて胚の発生阻害を誘導し、その発生阻害を改善する試薬の探索を行ったところ、予想外に小胞体ストレス抑制効果が知られている化学シャペロンTUDCAがもっとも胚の発生改善効果があることを見出した。特に1000uMという高濃度が胚の発生でもっとも有効であった。さらに改善するため、探索で見つかった他の試薬との組合せによる相乗的な改善をしていく必要がある。また、胚のオートファジー活性を指標にした培養液開発を行うため、オートファジー活性を蛍光試薬を用いて可視化して胚の発生に影響を与えることなく培養することに成功し、タイムラプスイメージングにより体内受精胚と体外受精胚ではオートファジー活性が異なることを見出した。今後、さらに安全性などの研究を進めることでミトコンドリアの機能不全を克服する培養液の最適化ならびにオートファジー活性を指標にした培養液の開発へと発展することが期待される。
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