本研究課題では胚の細胞小器官の機能と発生能の関係に着目し、マウスの受精胚の体外培養において薬剤による細胞小器官の機能変化を誘導し発生におよぼす影響を明らかにし、これらの結果をもとに体外培養において細胞小器官の機能の最適化を行うことで胚の発生能を最大限に引き出す「機能性胚培養液」の開発を行うものである。最終年度の平成31年(令和元年)度は、細胞小器官のうち核に着目し、核受精後のMEKシグナルが前核形成時にクロマチンのエピジェネティクス修飾に与える影響および発生能における役割を明らかにした。特に1細胞期のMEKシグナルは前核期の正常なクロマチン形成およびその後の胚および産子の発生に重要な役割を果たすことを見出した。また、細胞エネルギーの恒常性維持における主要な制御因子であるAMPKシグナルに着目して発生率および発生における役割について検討を行った。その結果、AMPK活性の阻害及び活性化が発生低下を引き起こすこと、さらに、AMPKシグナルの活性化は、栄養外胚葉への分化を抑制し発生率を低下させることが明らかになった。一方、卵子の細胞膜と透明帯の空間である囲卵腔は、胚発生の重要な細胞外環境を提供する。囲卵腔のタンパク質の動態を可視化するために、疎水性および負の電荷をもつタンパク質に結合性をもつタンパク質染色試薬Lumiteinを用いてライブセルイメージング法の開発に成功した。これにより、受精後の囲卵腔および卵子表面のタンパク質がダイナミックに変化することが明らかになった。これら一連の研究により、胚の体外培養における発生率向上には、核および細胞シグナルの制御を最適化していくことの重要性が明らかとなった。
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