研究課題
精子幹細胞は精子の源となる細胞である。活性酸素(ROS)は生殖細胞に悪影響を及ぼすと考えられてきたが最近我々はNox1遺伝子によるROS産生が精子幹細胞の自己複製分裂に必要であることを見出した。本研究では精子幹細胞におけるROSがどのようなシグナル伝達を行い自己複製を促進するのかを解明することを目的とする。本年度はp38 Mapk 遺伝子改変マウスの解析を実施した。p38alphaのconditional KOマウスを大津欣也博士より導入し、精原細胞においてCreを発現するStra8-Creマウスと交配した。作成したp38alpha欠損マウスにおける精子形成の状態をGFRA1(未分化精原細胞マーカー),KIT(分化型精原細胞マーカー), SYCP3(減数分裂細胞マーカー)を用いた免疫組織化学で評価した。また、p38alpha conditional KOマウスをGFPを発現するマウスと交配し、ドナーとしてのマーカーを導入した。交配して生まれてきたホモのconditional KOマウスの精巣細胞を酵素処理によりバラバラにし、試験管内でCreを発現するアデノウイルスを感染させ、ブスルファン投与にて不妊となったマウスの精細管内へとマイクロンジェクションを行い、移植後2ヶ月後に精子幹細胞活性をコロニー数およびホストマウスの精巣の精子形成を含む精細管数を測定した。更にp38alphaのシグナル伝達機構を解析するためにp38alphaのconditional KOマウスの精巣からGS細胞の樹立を行った。このGS細胞よりRNAとタンパク質を回収した。このRNAを用いてp38alpha conditional KOマウスGSと野生型GSのマイクロアレイを実施しp38alpha欠損により発現が低下する分子を検索し候遺伝子を抽出した。現在それらの候補遺伝子について更に解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は実施計画通りに進捗した。具体的には以下の5項目についてp38 Mapk 遺伝子改変マウスの解析を計画しそれぞれ確認及び解析作業が完了した。①免疫染色を用いたp38alpha欠損マウスにおける精子形成状態の解析②p38alpha欠損マウスの妊孕性の確認③p38alpha conditional KOマウス精巣細胞の移植実験、④p38alpha conditional KOマウス精巣からのGS細胞の樹立、⑤p38alpha conditional KOマウスGSと野生型GSのマイクロアレイ。⑤のp38alpha conditional KOマウスGSと野生型GSのマイクロアレイによりp38alpha欠損により発現が低下する分子を検索し候遺伝子を抽出した。現在それらの候補遺伝子について更に解析を進めている。
平成30年度は当初の計画通りNox1制御シグナルの同定を実施する。以前の我々の報告でp38 MapkのinhibitorであるSB203580によりGS細胞の増殖が制御されNox1の発現が低下する事を見出した。これまでにp38 MapkがGS細胞におけるNox1の発現およびROSの発生に必要である事は判明しているが我々の予備実験では活性型p38 Mapkの強制発現のみではROS産生およびNox1の発現には十分でないという結果を得ていた。この為、p38 Mapkと協調して働く分子が存在してGS細胞のNox1遺伝子によるROS産生を促進していると予想した。この予想に基づき、今後はp38 Mapkと協調してROS産生およびNox1遺伝子の発現に必要な分子をさらに同定することでROS産生に関わる分子をより大きなスケールで検索する。今回の実験では小分子化合物の自動スクリーニングを行う。現在のところSelleck chemical (476個)、calbiochem(65個)、およびPrestwick社(1120個)由来のケミカルライブラリーが入手可能である。これらの小分子化合物を用いてスクリーニングを二段階で行う予定である。先ず第一のステップではlucigeninの発行を利用してこれらの薬剤のうちROS産生を抑制する分子を同定する。次のステップでは候補分子が実際にNox1遺伝子の発現抑制を引き起こすかどうかを調べる為にRealtime PCR法により確認を行う。候補遺伝子の選定後、shRNA及びCrisper-Cas9を発現するレンチウィルスによりGS細胞におけるROS産生及びNox1遺伝子の発現誘導に及ぼす影響を解析する。これらの分子がキナーゼや転写因子であった場合は活性型の分子を作成し、p38 Mapk(Mapk14)と同時に遺伝子導入する事でその影響を調べる。
海外に発注した試薬の納品に遅れが生じた為。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Stem Cell Reports.
巻: 9(4) ページ: 1180-1191
10.1016/j.stemcr.2017.08.012