研究実績の概要 |
活性酸素(ROS)は生殖細胞に悪影響を及ぼすと考えられている。我々は以前Nox1遺伝子によるROS産生が精子幹細胞の自己複製分裂に必要であることを見出した (Morimoto et al., Cell Stem Cell, 2013)。本研究は精子幹細胞においてROSがどのようなシグナル伝達を行い自己複製を促進するのかを解明する事を目的とした。これまでにp38 Mapk活性がNox1の発現に必要である事を見いだしており、本研究ではp38 Mapkの遺伝子欠損マウスの解析を行い生体内でのNox1の制御機構を解析した。また培養精子幹細胞の遺伝子発現解析によりp38 Mapk分子の下流のシグナル伝達経路を解明し、ROSの産生を促進する転写因子を機能的に同定した。本研究は(I) p38 Mapkの遺伝子欠損マウスの解析, (II) Nox1制御シグナルの同定、(III) ROSにより制御される転写因子の同定、(IV) GS細胞におけるミトコンドリア由来のROSの影響の解析の4つの項目について行った。先ず、(I) p38 Mapkの遺伝子欠損マウスの精子幹細胞の表現型と機能解析を行った。(II)Nox1の解析については小分子化合物ライブラリーを用いてスクリーニングを行いNox1の発現に影響するシグナル伝達経路を同定した。(III)についてはマイクロアレイにより標的遺伝子の同定を行った。この結果、ROSの産生を促進する候補遺伝子としてBlc6b遺伝子が見出された。GS細胞へBlc6b遺伝子の遺伝子導入を行い機能的に評価した結果、p38 Mapk/Erk5/Bcl6b経路がROSの産生を介して精子幹細胞の自己複製を行うポジティブフィードバックを形成している事がわかった。更に(IV)ではミトコンドリア特異的にカタラーゼを抑制した場合の精子幹細胞の自己複製への影響の機能解析を行った。
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