精子は本来非自己として免疫系に認識される。血液精巣関門(BTB)による免疫系細胞からの隔離と精巣の免疫寛容により精子形成は進行する。これらの仕組みが破綻すると、自己免疫性精巣炎による精子形成障害が発生する。その発症機序の解明には、原因となる免疫系細胞を特定すること、および精巣のいずれの細胞がどのような免疫系細胞による攻撃を受けるかを明らかにする必要がある。前者について、精子抗原を投与したラットから精子抗原特異的T細胞を採取し、培養条件下で活性化する手法を開発した。最終年度、細胞をフローサイトメトリーで解析した。ほぼ全細胞がTNFα陽性であり、内訳として75%がCD4+CD8-、20%はCD4+CD8+であったことから、Th1とCD4陽性細胞障害性T細胞であることが示唆された。これらの細胞を正常雄に移入し、精巣重量の低下がみられた(組織学的検索を実施中)。 精子を投与して自己免疫性精巣炎を発症した精巣では、BTBのバリア機能が破綻することをトレーサー試験で確認した。BTBの成立にはセルトリ細胞間に形成されるタイトジャンクションおよびギャップ結合等が関与する。免疫組織学的検索により、これら接合装置の構成因子であるクローディン11(タイトジャンクション関連タンパク質)の局在異常およびCx43(ギャップ結合関連タンパク質)の発現低下を確認した。また、セルトリ細胞の細胞骨格を形成するビメンチンの局在異常と発現上昇がみられた。炎症によるこうしたタンパク質の発現変化と局在異常がバリア機能を破綻させ、精子形成障害を起こすことが示唆された。 今後、移入による精巣炎の発症機序の解析とともに、ドナー細胞のサイトカイン産生等を解析して、自己免疫性精巣炎の発症機序の解明を進める。更に、精子由来の抗原物質の同定を行い、男性不妊の原因のひとつであるこの病気の診断と治療方法の開発に繋げていきたい。
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