研究課題/領域番号 |
17K08145
|
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
黒須 剛 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (70432432)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | デングウイルス / ウイルス感染症 / 全身性感染症 / 多臓器不全 / 血漿漏出 / サイトカインストーム / 出血熱 / 感染動物モデル |
研究実績の概要 |
デングウイルス感染症は。血管透過性の亢進と血小板減少症を特徴とし、重症化すると血漿漏出により出血を伴うショック症状に陥る。その病原機序は明らかではなく、効果的な治療法・予防法はない。これまでに我々は血漿漏出と血小板減少症、骨髄抑制(巨核球と赤芽球島の消失)を観察できるデングウイルス感染新規マウスモデルの開発に成功しており、本研究では重症化機序を明らかにすることを目的としている。モデル系を用いたトランスクリプトーム解析から得られた重症化関連候補因子群について実験的に解析し、以下のようなモデルが考えられるに至った。1)デングウイルスが各種臓器にいるマクロファージ系の細胞に感染すると、TLR4を介して活性化が起こる。それによりTNF-αなどの炎症性サイトカインが産生される。それによりMatrix metalloprotease (MMP)がマクロファージ(MMP7産生)や好中球(MMP8産生)から産生される。2)さらに病態が進行すると、デングウイルス感染により(直接的/間接的に)活性化した樹状細胞からIL-1β、IL-6、IL-23が産生され、Th0細胞がTh17細胞へ分化誘導される。3)IL-17存在下でIL-6の刺激が入ることにより、血管内皮細胞でIL-6 amplifierの炎症回路が回りだし、過剰なIl-6産生へと導かれる。4)そのIL-6が増殖した好中球に働きMMP8を産生させる。またより一層マクロファージを活性化させMMP7産生も上昇する。これらMMPが血管内腔に存在するSyndecanやcollagenなど血管構造に関する因子や内皮細胞に働き、安定性が失われ出血を伴う血漿漏出現象を引き起こす。 骨髄抑制モデルでは前駆細胞の分化に関わる転写因子が抑制されていることが判明した。このことから巨核球‐赤芽球前駆細胞が感染より障害を受けていると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
感染マウス肝臓、腸管から継時的に得られたRNAを用いた解析が順調に進んだ結果、血漿漏出を伴う重症化に至る主な経路が判明してきている。今年度行った腸管を用いた解析から、これまで肝臓を用いた解析では明らかにできなかった現象も捕えている。予想外なことに腸管の障害が重症化最後の一撃を加えている可能性があることが判明している。これまでマクロファージ活性化に始まり、サイトカイン産生亢進異常、血管内皮のダメージに至る経路で、阻害剤を用いた実験結果により重症化に重要な経路がより明らかになっている。 また骨髄抑制機序についても進展した。骨髄での巨核球消失と赤芽球消失が顕著であり、両細胞は共通した由来を持つが、前駆細胞の分化に関わる転写因子が抑制されていることが判明した。このことから巨核球‐赤芽球前駆細胞が感染より障害を受けていることが予想されている。一方で感染マウス由来の骨髄では血球貪食像も認められ、マクロファージが何らかの理由で異常に活性化していることも判明した。血球貪食像が認められる感染症の動物モデルは少なく、解析を進めることでデングウイルス感染症だけでなく、重症熱性血小板減少症候群ウイルス感染などに観察される血球貪食による血小板減少症の病態機序の解明に役立つ結果が得られると期待できる成果であることを確認した。 以上の理由により、本研究は予想以上の成果を得ていると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)重症化カスケード上流の解析:重症化への一番初めのステップであるマクロファージ系細胞の活性化機序について培養細胞系を用いた実験により詳細を明らかにする。活性化に関与する候補遺伝子のノックアウトや過剰発現の実験を行って機能解析するには培養細胞での実験は必須である。既存のマクロファージ系の培養細胞ではデングウイルスの感染性が低い。そのため現在使用しているノックアウトマウス由来のマクロファージ細胞を樹立する。これはデングウイルスに対して感染性が高いと考えられる。 (2)血漿漏出に至るカスケード下流の解析:炎症回路の関与を強く疑う結果を得ており、今後重要なのはTh17細胞への分化誘導機序を明らかにすることである。ウイルス粒子表面に存在するEタンパク質と樹状細胞上膜タンパク質との相互作用について解析するため、各種エンベロープウイルスとの比較解析により両者の相互作用を明らかにする。 (3)骨髄抑制機序の解析:現在までの結果からは巨核球と赤芽球に共通する赤血球・巨核球系前駆細胞への分化誘導転写因子発現抑制が判明している。この原因には2つの可能性が考えられる。前駆細胞へのウイルス感染により細胞死が起こる可能性と肝臓などの障害によるTPO発現現象などの分化誘導因子の発現低下が原因となる可能性である。マウス個体を用いてその他の臓器の継時的なサンプリングを行い、遺伝子発現解析を行うことにより、原因を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究を効率的に進めた結果直接経費を節約することができた。これまで期待以上の成果を得ており、そのため平成29年度に計画していた実験のいくつかを変更し、平成30年度予定の異なるより高いレベルの実験を実施するために次年度使用額が生じた。
(使用計画)費用は平成30年度に購入予定である重症化関連パスウェイに阻害効果のある高価な試薬購入に使用する。また複数の論文発表を予定しており、学会発表を含めた費用に充てる。
|