研究課題/領域番号 |
17K08149
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
弘中 満太郎 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (70456565)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 走光性 / 定位 / 点滅光 / フリッカー光 / 臨界融合頻度 / 低誘虫 |
研究実績の概要 |
昆虫を含めた動物がフリッカー光をどのように知覚し,フリッカー光に対してどう反応するのかについては,これまで断片的にしか明らかになっていない.本研究課題では,農業害虫チャバネアオカメムシにおいて予備実験で観察されたフリッカー光に対する特異的行動とそれに伴うフリッカー光源への低誘虫現象を基盤に,本種をモデルとして,可視周波数の電気生理学的・行動学的解析とフリッカー光の種々の属性に対する行動学的解析を行う.それらの結果に基づいて,フリッカー刺激を利用した新規の低誘虫技術の基礎となる知見を得ることを目的とするものである. 平成29年度は,「1.電気生理学的解析によるCFFの特定」と「2.行動学的解析によるCFFと行動メカニズムの推定」を進めた.「1.電気生理学的解析によるCFFの特定」では,網膜電図法を用いてチャバネアオカメムシの複眼の光強度応答曲線及び分光感度曲線を得た.また紫外および白色のLED光源に対する臨界融合周波数(CFF)が,それぞれ平均74Hzと平均86Hzであることを特定した.「2.行動学的解析によるCFFと行動メカニズムの推定」では,7種類の波長の光源に対して30~240Hzまでのフリッカー周波数で点滅する光源に対する走光性行動を観察した.いずれの波長でも60~120Hzの間で,光源に対する急激な誘引率の低下が認められた.一方で,周波数と飛翔率との間に関係は認められなかった.30Hzおよび240Hzのフリッカー光源と非フリッカー光源に対する飛翔軌跡を観察したところ,30Hzのフリッカー光源において顕著な転回行動を含む複雑な軌跡が認められ,低周波数のフリッカー光が,光源への正確な定位を阻害していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の課題としていた「1.電気生理学的解析によるCFFの特定」では,網膜電図法により,光強度応答曲線と分光感度応答曲線を得た上で,チャバネアオカメムシのフリッカー光に対する臨界融合頻度(CFF)を特定することができた.一方,細胞内微小電極法によるCFFの特定は遅れている.「2.行動学的解析によるCFFと行動メカニズムの推定」では,各波長の光源に対する走光性において行動学的CFFを推定するなど,予定していた課題の大半を完了することができた.総じて,研究全体はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,平成29年度の成果を受けて「2.行動学的解析によるCFFと行動メカニズムの推定」と「3.フリッカー4属性に対する行動反応の解析」の2つの行動実験を網羅的に進める. 「2.行動学的解析によるCFFと行動メカニズムの推定」では,行動メカニズムの推定を引き続き行う.「3.フリッカー4属性に対する行動反応の解析」では,2で用いた実験系を利用し,波長,光強度,デューティー比,変調深度といったフリッカー光の4つの属性を変化させ,その行動反応を定量化する.これらの解析結果から,低誘虫効果の高いフリッカー光の属性の組み合わせを特定し,ヒトへの視認性と低誘虫効果の検証が可能な大型光源の試作に入る.
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次年度使用額が生じた理由 |
異動によって平成29年度から所属機関が変更になったことから,前任の浜松医科大学が現有する機器を用いた電気生理学的実験の進捗が遅れている.細胞内微小電極法による臨界融合頻度(CFF)の特定の実験系の確立に時間を要しており,計画を一部変更した. 研究協力者の所属する浜松医科大学現有の機器を用いて細胞内微小電極法によるCFFの特定を進める.そのために必要な,浜松までの旅費および電気生理学的実験のための消耗品として使用する.
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