研究課題
ヒトスジシマカの幼虫(ボウフラ)を、新技術「NanoSuit-EDS法」により生きた状態のままFE-SEMで解析すると、口吻の毛状構造にのみAl(アルミニウム)元素が検出された。各種実験結果から、測定された元素は外液等に含まれる元素の単なる付着に起因するものでは無いことがわかった。そこで、発生過程をNanoSuit-EDS法により解析し、特定元素の局在がどのように変化して行くのか追跡した。Alを低濃度で含む人工水を作成し、幼虫の生育と金属元素との連関を調べると、この人工水で飼育した幼虫では、腸管内皮においてAlの局在が確認され、令が進むに従いAl値は有意に上昇し周辺組織への広がりもみられた。しかし、発生が進んでも口吻の毛状構造にはAl値の分布は確認できず、現在のところ、金属元素の口吻への発現過程には未だ解明されていない機構の存在が示唆された。一方、このようなNanoSuit-EDS法の結果から、従来の生物元素分析法では化学固定・脱水・乾燥処理を施した試料を用いていた為、収縮・変形により本来の微細構造を維持していないだけでなく、多様な溶液処理を行う結果として、生体試料中の元素は洗い流され、残っていても局在や分布は修飾されていることが明らかになった。本研究を通して、NanoSuit法にEDS分析法を組み合わせた、生きた状態の生物試料をFE-SEMを用いて高分解能で元素分析するNanoSuit-EDS法を確立した。NanoSuit-EDS法では、生体本来の微細構造を観察できるのみならず、含水標本を用いて20,000倍を超える高倍率・高分解能で元素組成を分析できる。また、高真空環境下でも生体内の水が保持されるため、これまでの低真空SEMや環境SEM機を用いても成し得なかった、例えば超微細構造における水に起因するO(酸素)の状態・変化をLive解析することも可能となった。
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