研究課題/領域番号 |
17K08151
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
坂本 克彦 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 教授 (40416673)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 光周性 / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
本研究では、昆虫の光周性(日長応答性)における日長測定機構の分子レベルでの解明をめざし、日長測定に関与する遺伝子の同定とその機能解析を進めている。 平成29年度は、研究のファーストステップである、次世代シーケンサを用いた候補遺伝子のスクリーニングをおこなった。研究対象としては、幼虫期の日長によって次世代卵の休眠・非休眠が決定されるカイコ系統(短日で休眠、長日で非休眠)と、蛹休眠の終結が日長で誘導されるヤママユガ科のサクサン(短日で休眠維持、長日で休眠覚醒)を用いた。光周性感受期の個体を用意し、短日刺激群と長日刺激群の間で、次世代シーケンサを用いて脳内の遺伝子発現プロファイルを網羅的に比較した。ここで、スクリーニングにおける精度をあげるために、長日刺激として短日下暗期光中断処理をおこなった。つまり、夜間の光パルス照射の有無だけで、長日効果と短日効果を区別できる条件である。 次世代シーケンサを用いた、日長刺激で発現差異が誘導される遺伝子の抽出作業はすでに終了している。現在、カイコについてはデータ解析中であるが、サクサンでは興味深い結果が得られている。光周反応を誘導する光パルスを与えられたサクサン蛹の脳では、以下の遺伝子に発現変動が惹起されていることが判明した:他の昆虫種で光周性に関与すると考えられているForkhead、概日時計や様々な重要な細胞機能に関与するGSK3β、セロトニンレセプター5HT1A、転写因子やシグナリングに関わるキナーゼ類、GTPase活性とATPase活性の制御に関わる遺伝子、そして、ヒストンタンパク質のメチル化に関わる遺伝子、など。昆虫の光周性や休眠の制御においては、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構の関与についてはまだよくわかっていないので、ヒストンメチル化関連遺伝子の発見は、未知のメカニズムの解明につながる可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように、平成29年度に予定していた、次世代シーケンサを用いた光周性制御遺伝子候補のスクリーニングは、カイコとサクサンの両種において順調に進んだ。カイコのデータについては現在解析中であるが、近日中には候補遺伝子の絞り込みが終了する予定である。サクサンのほうではすでに興味深い候補遺伝子が得られている。特に、ヒストンメチル化関連遺伝子の発見は、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構解明の手がかりになると考えられる。現在、次のステップである、候補遺伝子の機能解析のためのRNAi実験に進む準備を整えている。
|
今後の研究の推進方策 |
次世代シーケンサによるスクリーニングで得られた光周性制御遺伝子候補に対し、さらなる絞り込みをおこなう。具体的には、カイコとサクサンのデータを比較し、共通の候補遺伝子を検索する。そして、RNAi法を用いて機能抑制をおこない、光周反応への影響を調べる。同時に、候補遺伝子の機能に対する阻害剤を用いて、薬理的な実験もおこなう。特に、ヒストンメチル化については、様々なアゴニスト、アンタゴニストを用いた解析をおこなう予定である。上記の解析から未知の情報伝達経路が見つかることを期待している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
理由:次世代シーケンサを用いた解析作業を外部機関に委託したが、複数回の継続依頼をしたため、費用の割引を受けられたからである。 使用計画:繰り越した約13万円は、次年度におこなう予定のRNAi実験の試薬費用に追加する。RNAi法による遺伝子機能阻害実験の規模を大きくすることで、実験対象とする候補遺伝子の数を増やし、ターゲット遺伝子のスクリーニング効率を上げることができると考えている。
|