研究実績の概要 |
シロアリの生殖虫が「寿命と生殖のトレードオフ」を打ち破った希有な生物であることは古くから知られてはいたが, 主にそれは生態学的な研究対象で, 長寿命と多産を可能としたシロアリの生存・生殖戦略については全く未解明であった。私たちは最初に「シロアリ(生殖虫)は, その長寿命と高繁殖力を実現するために優れた抗酸化システムを有している」と仮説を建てており, その全容を明らかにし, ヒトへの応用可能な知見を得ることを最終目的としている。 現在までに, 1) シロアリ生殖虫は低酸素濃度に非常に耐性でかつ低酸素状態を感知して生殖能力を増大させられるなど低酸素状態に適応した代謝能力を有し, その際カタラーゼやペルオキシレドキシンなどの抗酸化酵素の発現を上昇させること, 2) シロアリカーストの中で最長寿とされている王について, DNA修復に関わる遺伝子群その中でも特にヒト乳がん関連遺伝子のBRCA1遺伝子が高発現していること, 3) シロアリ体内でコエンザイムQ10が抗酸化システムの一つとして重要な役割を担い, 寿命延長に積極的に関わっていることなどを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
女王の卵巣で顕著に高いカタラーゼ発現がヤマトシロアリの高い繁殖能力に関与するのかどうか, siRNA を導入して産卵数が減少するか検証する。またカタラーゼcDNAをショウジョウバエ卵巣で高発現させ, 産卵数の増加が見られるのか調べる。 シロアリ体内における尿酸の増減が合成能亢進によるものか, 腸内微生物による分解抑制なのかを, 合成酵素キサンチンオキシダーゼ遺伝子mRNAの測定ならびに腸内微生物量の測定評価により明らかにする。さらに経口摂取でシロアリの寿命を延ばすことがわかった尿酸の抗酸化物質としての機能・寿命延長効果が他種の昆虫でも共通なのかどうか, 尿酸をショウジョウバエに経口摂取させて酸化ストレスに対する抵抗性, 寿命にポジティブに働くか調べる。
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