研究課題/領域番号 |
17K08154
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
原野 健一 玉川大学, 学術研究所, 教授 (80459297)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ハリナシバチ |
研究実績の概要 |
平成30年度は、ミツバチとは族レベルで異なり、独特な社会と巣の構造を持つハリナシバチの燃料積載行動を調べ、この行動の一般性を示すことを目的とした。研究材料には、ブラジルの半乾燥地に生息するハリナシバチMelipona subnitidaを用い、生息地であるブラジル北東部Rio grande do norte州で実験を行なった。 採餌物の異なる4種類の採餌蜂について採餌行動と出巣時積載蜜を調べ、花蜜採餌蜂<粘土採餌蜂<巣材採餌蜂<花粉採餌蜂の順で出巣時積載蜜量が有意に多いことを明らかにした。花粉採餌蜂は、帰巣時の蜜胃内容物を調べ、花蜜をほとんど採集していないことを明らかにした。粘土採餌蜂についても、採餌飛行時間が約3分と短いことと、少数の帰巣蜂を剖検した結果から、花蜜採集は行なっていないと考えられた。また、7-9時にだけ餌場で砂糖水を採餌するように訓練した場合には、給餌時間の前に飛来する場合には積載燃料(花蜜)を増加させていることも明らかにした。これらの結果から、本種はミツバチと同様に、採餌飛行中に燃料(花蜜)の補給が期待できる度合いに応じて、出巣時積載蜜を調節していると考えられた。加えて、粘土採餌蜂では飛行時間と積載する糖量に有意な正の相関が見られ、飛行に必要なエネルギー量に応じた調節があることも示唆された。また、花粉採餌蜂は他のタイプの採餌蜂よりも数倍出巣時積載蜜が多く、燃料としてのほかに花粉に混ぜて運搬用の団子を作製するためにも蜜を持っていると考えられた。出巣時積載蜜の濃度は、粘土採餌蜂のものが低い傾向があったものの、ミツバチで見られたように花蜜採餌蜂と花粉採餌蜂間の有意な違いはなかった。 上記の実験を行なう過程で、出巣蜂のうちプロポリスを花粉かごに付けて出巣している個体は採餌蜂ではなく、コロニー防衛に関わる個体であることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、所属機関の研修制度によりブラジルに滞在したため、予定を変更してハリナシバチの燃料積載行動の解明に取り組んだ。そのため、予定していた実験を行なうことはできなかったが、複数種を研究対象とすることで、燃料積載行動の普遍性および生態学的な条件や巣の構造との関係を考察できるようになり、研究の幅が当初期待していたよりも広くなった。また、平成29年度にはすでに濃度選択的な燃料蜜の利用の主要なメカニズムを明らかにしている。このような理由から、上に示す自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和元年度には、これまで行なってきた実験で不足しているデータを収集し、課題期間中の論文発表を目指す。 昨年度には、平成28年度に行なった出巣時積載蜜の濃度が花粉採餌に与える影響に関する研究をBehavioral Ecology and Sociobiology誌に投稿したが、反復数の不足と対照区の不備を指摘されてリジェクトされた。そのため、今年度はこれらの問題を解決するため、追加実験を行ない、再投稿する。この追加実験は、当初の予定には含まれていなかったが、本課題と共通の問題(応募内容ファイル:研究目的(2) 4. 高濃度の蜜を利用することの適応的意義)を扱っており、本課題の一部として遂行することは適当であると考えられる。 くわえて、平成29年度、30年度に得た実験データをもとに、1)ミツバチの濃度選択的な出巣蜜積載メカニズム 2)ハリナシバチにおける出巣時積載蜜の調節 について論文発表を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたミツバチでの研究から、ハリナシバチの研究に変更したことにより、ミツバチの購入費を使用しなかった。くわえて、ブラジルで滞在していた大学にはハリナシバチ研究のための設備が比較的揃っていたことと、実験消耗品の購入経路がなく、消耗品を思うように購入できなかったために、次年度使用が生じた。実験データの管理・解析および成果発表は、現有のPCで行なうことを予定していたが、このPCに不調が生じているため、次年度使用分はPCの購入等にあてる。
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