我々はこれまでに、ヤドリバエDrino inconspicuoides幼虫が寄主であるアワヨトウに寄生した際に、寄主からの細胞性免疫反応から逃れるため、自らの周囲にシースやクロークと呼ぶ構造を形成することを明らかにした。このクロークには寄主の脂肪体細胞が含まれる。ヤドリバエが寄主の脂肪体細胞を誘引しているかどうかを確かめるため、ヤドリバエ幼虫の分泌器官の候補として考えられる唾液腺、中腸、マルピーギ管及び表皮を、寄生したヤドリバエ幼虫から収集し、ビーズと混合することで、分泌物をコーティングしたビーズを作成した。これらのビーズを、寄主幼虫体腔内に移植して、ビーズ表面への脂肪体付着を調べた結果、唾液腺サンプルに特に多く寄主脂肪体の付着が認められた。従って、ヤドリバエ幼虫は寄生後に唾液腺からホストの脂肪体を誘引する物質を分泌することが示唆された。またヤドリバエ寄生後の、寄主体内では生体防御反応の一つであるメラニン化に関与するフェノールオキシダーゼ活性が活性化されないことが分かった。これにより、ヤドリバエは、寄主の細胞性免疫反応のみからではなく、液性免疫反応からの回避する仕組みをもつことで、寄主体内で生き延びていることが示唆された。
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