研究課題/領域番号 |
17K08164
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
星野 友紀 山形大学, 農学部, 准教授 (20530174)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 環境適応力 / 穂発芽耐性 / QTL / コシヒカリ / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
人間活動の高度化に端を発する地球温暖化は、近い将来、確実に穀物の生産力低下を引き起こす。これを未然に食い止めるために、穀物に「環境適応力」を付与させることは、穀物の栽培現場において早急に解決すべき課題である。地球温暖化の解決策には、一般的に環境を「守る」手法が採用されるが、本研究は、植物自身が環境変動から身を守るために有する機能を積極的に強化する、「攻めの」手法を採用する。本研究は、穀物の環境適応力強化の対象に「穂発芽耐性」を選定し、人為的に「穀物の穂発芽耐性を強化する」ための分子基盤を構築することによって、人間活動を支えるエネルギー源を確保し、将来における人間活動の礎を築こうとするものである。 穂発芽耐性遺伝子、【Sdr6a】と【Sdr6b】について、それぞれの候補領域の間で組換えを有する57系統群を実験材料に、遺伝子型調査と穂発芽調査を統合させた分子遺伝学的手法により、「穂発芽耐性」遺伝子の候補領域を調査した。その結果、Sdr6aとSdr6bの候補領域は、第1染色体短腕の約250 kbpという比較的近い物理距離の中で、それぞれ1,400 bpと220 kbpまでに絞り込むことに成功した。Sdr6bについては、候補領域内にまだ多くの遺伝子がある中で、発芽への関与が予想される2つの遺伝子の存在が確認された。Sdr6aについては、1,386 bpの候補領域内にコシヒカリとノナボクラ間で大規模な欠損や挿入変異は存在せず、1塩基置換や最大4塩基の欠損あるいは挿入変異が合計14ヶ所確認された。興味深いことに、この候補領域中には、遺伝子が存在しないことから、Sdr6aは近傍に位置する遺伝子の発現を変化させることにより、穂発芽耐性を示すことが示唆された。出穂後3から10週の胚における吸水処理後の網羅的な発現解析から、Sdr6aによって発現が誘導される遺伝子の特定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において、種子休眠性遺伝子座Sdr6aの候補領域は、特に塩基の多型が集中していた1,386 bpまで絞り込むことに成功した。RAP-DBより、この候補領域中には、遺伝子が存在しないことから、Sdr6aは近傍に位置する遺伝子の発現を変化させることにより、穂発芽耐性を示すことが考えられたことから、出穂後3から10週の胚における吸水処理後の網羅的な発現解析を行った。これまでの結果、Sdr6aによって発現が誘導される遺伝子の特定に成功し、この遺伝子が真に穂発芽耐性を制御しているか、解析を進めているところである。これは当初の計画を上回る成果である。 一方、Sdr6bは、作成した組換え系統が保有する遺伝子型の偏りによって候補領域は220 kbpと、未だ遺伝子を特定できるまでに候補領域を絞り込めていない。今後、さらなる候補領域の絞り込みを行うために、これまでに狭まったSdr6b候補領域付近のみノナボクラアリルを有する2系統を選定し、それぞれコシヒカリと交配させ、新たな組換え系統の作出を試みた。これは当初の計画からやや遅れているものの、想定内の範囲である。 以上の進捗状況より、全体としては、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
特定されたSdr6aが、真に「種子休眠性」を制御する遺伝子であるかを証明する。さらに、新規に得られたSdr6aがイネにおける「種子休眠」メカニズムにおいて、どのような役割を果たしているかを明らかにする。具体的には、ゲノム編集による変異創成、あるいは申請者によって既に構築済みであるコシヒカリTILLING系によって突然変異アリルの探索を行い、「穂発芽」に対する変異アリルの効果を検証することによって、単離された遺伝子が真に「穂発芽耐性」遺伝子であるか否かを証明する。 さらに、新規に得られたSdr6aがイネにおける「種子休眠」メカニズムにおいて、どのような役割を果たしているかを明らかにする。すなわち、これまでに明らかとなっている、OsDOG1 like gene、OsSdr1、OsSdr4、あるいは発芽に関連する植物ホルモン応答遺伝子群について、網羅的な遺伝子発現解析を行い、「種子休眠」の分子メカニズムの全体像に迫る。さらに特定された遺伝子の特徴に応じて、タンパク質レベルにおける機能解明を行う。 一方、Sdr6bについては、新規に作出した組換え系統を用いて染色体物理地図を作成し、ノナボクラの「穂発芽耐性」遺伝子座の候補領域を狭め、Sdr6bの本体となる遺伝子を特定するとともに、遺伝子内の多型を用いて穂発芽耐性DNAマーカーを作出する。さらに、特定されたSdr6bがイネにおける「種子休眠」メカニズムにおいて、どのような役割を果たしているか、関連する遺伝子の発現解析によって明らかにする。
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