研究課題/領域番号 |
17K08166
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
三亀 啓吾 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70571701)
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研究分担者 |
佐藤 伸 青森県立保健大学, 健康科学部, 教授 (40310099)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リグニン / 酸化分解 / 生理活性 / アリドール縮合 / キノコ廃菌床 |
研究実績の概要 |
自然界でリグニンは、おもに微生物酸化分解によりタンパク質や金属イオンの吸着能を発現している。自然界におけるリグニンの機能化を参考に、研究代表者はこれまで化学的酸化分解によりで、低収率ではあるが天然リグニンから抗酸化活性や長波長UV 吸収リグニン2量体を単離してきた。本研究では、木材腐朽菌前処理後、化学的酸化分解処理することで、自然界のリグニン分解をmimicし、抗酸化活性などを持つ機能性リグニン分解物の高効率生成手法を構築し、得られた物質の構造特性や生理活性を調べ、リグニンの高機能化に取り組むことを目的としている。 本年度の研究実施計画は、昨年度に引き続き「木材腐朽菌処理木粉および竹粉の酸化分解と分解物の機能性試験」である。これまで木材腐朽菌処理竹粉の酸化分解により、長波長UV吸収リグニンオリゴマーの収率が高くなることが確認された。また昨年度は、相分離変換法により得られるリグノフェノール(LP)のアルカリ酸化銅分解物を用い、肥満マウスを用いた動物実験を行った結果、腎臓の炎症抑制などの効果が見られた。 本年度は、木材腐朽菌処理竹粉酸化銅分解物の生理活性試験を行うため、廃菌床をマイクロ波処理装置で大量処理した。処理液低分子画分には、大量のモノマーが含まれるため、これを分取GPCにより分画し、モノマーとオリゴマーを分離した。今回、この分解物中にこれまで確認できていなかったカルコン構造を持つ2量体の存在が確認された。 また、リグニンオリゴマーの収率改善の検討として、これまでに単離した2量体のいくつか生成機構がモノマー間のアルドール縮合である推定し、その反応に必要なアセトンをアルカリ酸化銅分解処理時に添加した。アセトン添加により、バニリンとシリンガアルデヒドがアセトンと反応し、2量体の前駆体となる化合物の収率が大きく改善され、長波長UV吸収オリゴマーの生成量が多くなることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでシイタケ等を竹粉培養し、その廃菌床のマイクロ波処理アルカリ酸化銅分解を行った結果、長波長UV吸収リグニンオリゴマーの収率が、腐朽菌処理しない場合と比べかなり高くなることが確認された。この低分子画分には、長波長UV吸収オリゴマーの他に多くのバニリン、シリンガアルデヒド、アセトグアイアコン、アセトシリンゴン等のモノマーが多く含まれているため、低分子画分をそのまま生理活性試験を行うことができない。昨年度、モノマーを生成しない相分離処理により得られるLPのアルカリ酸化銅分解物を用いて生理活性試験を行った。比較的高い抗酸化活性を有していることが確認されたので、この試料を高脂肪食投与マウスに投与し、内臓疾患への影響を調べた結果、腎障害を軽減することが示唆された。今年度は、木材腐朽菌処理竹粉酸化銅分解物の生理活性試験を行うため、マイクロ波処理装置を用いて木材腐朽菌処理竹粉の大量酸化銅分解処理を行い、分取GPCを用いてモノマー画分とオリゴマー画分に分画した。このマイクロ波処理酸化銅分解低分子画分のLC-MS分析を行ったところ、λmax=360nmを持つカルコン構造量体の存在が確認された。今後、この画分を用いて、動物培養細胞による生理活性試験を行う予定である。また、オリゴマーの収率改善の検討として、長波長UV吸収2量体の推定生成機構から、モノマーへのアセトンのアルドール縮合が重要であると考え、アセトンをアルカリ酸化銅分解処理時に添加した。アセトンがバニリンとシリンガアルデヒド反応し、2量体の前駆体となる化合物デヒドロジンゲロンとそのシリンギルタイプ化合物(新規)の収率が大きく改善され、長波長UV吸収オリゴマーの生成量が多くなることが確認された。これにより、木材腐朽菌処理とアセトン添加処理により、長波長UV吸収リグニンオリゴマーの生成が大きく促進されることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験により、リグニンのアルカリ酸化銅分解オリゴマーが生理活性を有すること、マイクロ波処理装置を用いきのこ廃菌床をアルカリ酸化分解することにより、効率よく長波長UV吸収リグニン分解物が得られ、アセトン添加によりさらに長波長UV吸収リグニン分解物が生成することが確認されている。 今後、白色腐朽菌処理竹粉アルカリ酸化分解物の抗酸化活性や美白効果に寄与するチロシナーゼ阻害活性などの生理活性を調べるとともに、LPアルカリ酸化分解物の動物実験を参考に、そして、研究分担者である青森県立保健大学 佐藤伸教授に動物を用いた成人病などに対する生理活性効果を検討していただく。これらの機能評価により、高い生理活性を有する構造特性を持つ高機能性リグニン分解物の高効率誘導方法を確立し、リグニン由来生理活性物質などの高付加価値物質の用途へつなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に参加予定の学会が中止となり、発表学生分と合わせ、旅費が残った。そのため、研究期間を延長し、残った実験の費用として利用する予定である。
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