研究課題/領域番号 |
17K08167
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
森 智夫 静岡大学, 農学部, 助教 (80536516)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 白色腐朽菌 / エタノール発酵 / バイオリファイナリー |
研究実績の概要 |
白色腐朽菌Phanerochaete sordidaの好気的エタノール発酵機構について検討したところ、0.3%以上のグルコース濃度ではグルコース消費量速度、および菌糸成長収率はほぼ一定であった。一方で、好気的エタノール発酵はグルコース0.3%以上で観察された。またこの時、エタノール発酵が観察されるグルコース濃度前後では、呼吸代謝・発酵代謝の分岐点にあたる酵素遺伝子の発現量は変化がなかった。よってP. sordidaでは、グルコースは菌糸成長に優先的に利用されるが、余剰なグルコースの一部をエタノール発酵に利用することでエネルギーを得ている可能性が示された。 また、P. sordidaからヘキソーストランスポーター(Pshxt)を同定し、その過剰発現株を作出した。過剰発現株は、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロースの取り込み活性を大きく向上させ、ガラクトースの取り込みをわずかに改善した。一方でアラビノースの取り込みは変化しなかった。キシロース以外の取り込み活性が上昇した単糖からのエタノール発酵量も増大しており、単糖取り込み活性、或いは、単糖濃度がエタノール発酵に重要な要素であることが明らかになった。一方、キシロースはエタノールではなくキシリトールに変換された後に、細胞外へと排出されていた。また、単糖によってエタノール産生量、リグニン分解酵素活性や二次代謝産物量などが変動することが新たな知見として得られおり、木材分解糖の組成バランスによって、白色腐朽菌の生物活性が様々に変化する可能性も予想された。 単糖濃度がP. sordidaのエタノール発酵へ強く影響していたことから、木材腐朽時のエタノール発酵には多糖分解酵素活性が鍵要素であることが推測され、セルロース分解活性と木材からのエタノール発酵の関係性について調査している。また、低酸素時の呼吸・発酵系酵素の発現バランスについても解析を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画時の予想とは異なり、白色腐朽菌は好気的にエタノール発酵が可能であるという新たな知見を得たため、その発酵制御機構の一部を明らかにすべく当初計画にはない検討を進めたため、当初計画からは若干の遅れが生じた。また、白色腐朽菌P. sordidaの発酵特性から、リグニン分解ではなく多糖分解が鍵要素であることが強く示唆される結果を得ており、これ以降は当初計画に沿って検討を進めることが出来ると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、白色腐朽菌P. sordidaによる木材からのエタノール産生において、脱リグニンと多糖分解活性の重要性を明確化すべく検討を進めている。また、木材腐朽時の酸素濃度と呼吸・発酵系の切り替え、リグニン・多糖分解活性の関連性について検討している。これら検討により、白色腐朽菌P. sordidaのエタノール発酵に重要な要素の幾つかを明らかにする事により、白色腐朽菌におけるエタノール発酵の意義について考察することが出来ると考えている。また、必要に応じてトランスクリプトーム、プロテオーム解析などを行う。
|