研究課題/領域番号 |
17K08177
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
楠本 良延 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 上級研究員 (30391212)
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研究分担者 |
稲垣 栄洋 静岡大学, 農学部, 教授 (20426448)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 茶草場 / 生物多様性 / 世界農業遺産 / 自然共生 / 管理形態 / ランドスケープ管理 |
研究実績の概要 |
これまでの申請者らの研究(科研費21510250 2009-2011年)により、静岡県には茶園に敷く草を刈るための「茶草場」と呼ばれる植物の多様性が豊かな半自然草地が存在することが明らかとなり、この研究成果により「静岡の茶草場」はFAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産に登録された。 上記の研究は、限られた地域を対象とした調査によるものである。しかし、実際には茶草場は広域に分布し、地域ごとに多様な立地環境や管理が存在する。このような地域間の立地環境や管理法の違いは、半自然草地の生物相の多様性に大きな影響を及ぼしていると考えられる。そこで本研究では、地域による茶草場の立地環境、管理法、経営状況の違いと、生物との関係を調査し、茶草場の立地・管理形態の多様性が、生息地間の生物の多様性の保全に及ぼす効果について解明し、理想的な維持管理のあり方を提示することが目的である。 本年度は、静岡県掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町において維持されている茶草場において、植生調査ならびに管理実態の把握を行った。その結果、地域による植物群落組成の違いが明らかになった。また、管理状況についても地域により違いが認められた。主に静岡県掛川市、菊川市、島田市、牧之原市の植物群落組成と川根本町の違いが大きく、地形や気候条件などに代表される地理的違いのほかに管理状況の違いが大きな原因であると考えられる。また、川根本町ではシカの食害が植物群落の種組成に多きな影響を与えていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植生調査ならびに、チョウ類の予備調査が予定どおり終了した。一部、チョウ類の本調査が未実施に終わった。その理由は中根本町を中心とした地域においてシカの食害が当該エリアの生物多様性に及ぼしている影響が甚大であることが明らかになった。当該地域の茶草場の生物多様性維持機構を解明する上で重要と考えられるシカの食害が植物群落に与える影響の調査・解析を優先した。 チョウ類の本調査は本年度(平成30年度)に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)茶草場における生物相(昆虫相と鳥類相)の調査・分析:研究対象地において、かつてから維持されている茶草場(半自然草地)において、昆虫相と鳥類相の調査を行う。(2)歴史的・社会的な維持要因の解析:茶草場の多様性と密接に関係する茶生産の歴史やコモンズ(入会)の仕組みを明らかにする。生産者からのヒアリングや文献調査、郷土史研究の専門家へのヒアリングを通して、当該地域における茶生産と茶草場の関係を整理し、社会的な維持要因の解明を行う。(3)対象地における土地利用履歴の変遷の把握:茶草場の土地利用変遷を把握するため、過去に作成された地形図(旧版地形図)や空中写真の判読を行い、GISマップデータとして構築する。これにより茶草場や茶園の土地利用の変遷を定量的に把握する。得られたデータは生物相の分布データの解析に供与する。(4)経営面から見た茶草場農法の成立・普及条件の解明:茶草を利用した茶栽培技術と収益性の分析を実施するとともに、茶草場農法実施経営の調査を行い、茶草場農法普及における認証制度の意義を検証する。以上により、茶草場農法を実施するための茶草場及び茶生産の管理技術とその負担、及び経営経済性を解析し、その成立・普及条件を明らかにする。(5)異なる地域における茶草場の農生態学的(Agroecology)な維持要因の解明:各地域の茶草場の植物相、チョウ相、昆虫相、鳥類層の多様性が、①空間的な立地環境の違い、②管理形態の違いや土壌条件の違い、③土地利用変遷の違い、④経営・経済状況の違い等のそれぞれの要素がどれくらいの割合で影響しているかを、変動分割法を用いることにより明らかにする。 以上、得られた成果を活用し、世界農業遺産を後世に引き継ぐため、里地里山域に成立する農業に依存した茶草場の普遍的な維持・管理手法、回復手法をそれぞれの地域に応じた形で提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度はチョウ類の本調査を予定していたが、シカの食害が本研究地域の生物多様性に与える影響が甚大であることが明らかになり、シカ食害の調査を優先した。その結果、チョウ類本調査の旅費や謝金などのコストが未使用になったことが原因である、チョウ類の本調査は2018年度(平成30年度)に実施する予定である。
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