研究課題/領域番号 |
17K08186
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
加藤 和弘 放送大学, 教養学部, 教授 (60242161)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 都市緑地 / 鳥類 / 境界 / 移動 / 植生指数 / 障害物 |
研究実績の概要 |
1. 2017年度より実施していた小石川植物園周辺市街地(2地域)、小金井公園周辺市街地(同)、平林寺周辺市街地(同)の鳥類調査を、2018年9月まで毎月1回実施した。両年度を通じて12ヶ月間、毎月の調査を実施した結果、市街地における鳥類出現状況の季節性について新たな知見を得ることができた。詳細は現在分析中であるが、越冬期の初めと終わりに個体の移動が活発になる状況や、特にムクドリについて繁殖期間中に活発な移動が確認できる状況が認められた。樹林地の境界を越えた鳥類の移動が活発に見られる場所の条件として、周囲に樹木群があること、幅の広い道路がないこと、なども確認できた。さらに、これらの地域において、2018年10月に、植生調査を実施した。この結果を、鳥類の出現状況、移動状況と対応づけて、2019年度に分析を行う予定である。
2. 1.の3地域において、衛星画像ならびにDEMを入手し、植生および建築物の地域内での分布状況と鳥類の出現状況の対応関係を分析するための準備を整えた。これまでにDEM情報の精査と植生指数NDVIの計算を終え、現在、調査地域を適切な分析単位に分割するやり方の検討を進めている。
3. 2018年11月より、大宮公園、光が丘公園、赤塚公園を対象として鳥類調査を進めている。1.の結果から、公園隣接地の状況に応じて鳥類の移動状況に顕著な差があると考えられたことから、公園の境界両側に出現する鳥類と境界を越えて移動する鳥類を従来の倍の調査密度(1日に境界を2巡する)で記録している。光が丘公園については、南側に広がるニュータウンや住宅地内の鳥類についても調査を行っている。公園隣接地に緑道や別の樹林地がある場合には鳥類の移動が活発になるが、樹林地との間に高速道路の高架等の障害物があると、ドバト、ハシブトガラスの2種を除いて移動は起こりにくいことを示す、データが得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年度目の調査対象地域3地域について、植生及び建築物の状況を分析するための用意を2018年度中に完了する計画であったが、それを完了できなかったため、この評価とした。1年度目の調査対象地域の分析が特に問題なく進みつつあるので、同様のやり方で2年度目の3地域についても分析できると想定され、今後の研究の遂行にあたって重大な支障にはならない見込みである。なお、野外調査については、鳥類調査、植生調査ともに、順調に実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
現在実施中の鳥類調査を、2019年の繁殖期終了まで継続し、その後植生調査を実施する。2年度目に野外調査を開始した3地域について、衛星画像とDEMを用意した上で、植生と建築物の分布の分析を行う。これらの分析結果と、鳥類調査、植生調査の全てのデータの集計結果を組み合わせて、核となる大規模緑地を中心とした地域における鳥類の分布や移動の状況が、植生や建築物の分布によってどのように規定されているかを分析し、その結果に基づいて、本研究の目的である、大規模樹林地が地域における核となる生息場所となり得るかを考察する。 大規模樹林地と周辺の市街地等の間で鳥類の移動がほとんど起こっていないようであれば、大規模樹林地は、「核となる生息地」というよりは「孤立した生息地」に過ぎないと判断せざるを得ない。また、市街地内の植生分布や建築物の分布の影響を考慮してなお、市街地における鳥類の種多様性が大規模緑地から離れるに従って減少する、大規模緑地から外側に向かって、種組成が単調に変化する、といった傾向が見られるなら、大規模樹林地から周辺に向かって、種の供給が起こっていると判断できる。現時点では、種組成の分析のためには既知の環境要因の影響を除去できるPartial RDA(またはPartial CCA)を、種の豊富さの分析のためには大規模樹林地からの距離以外の説明変数を含む一般化線型モデルで説明しきれない残差を応答変数とする一般化線型モデルを、それぞれ利用することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年度目に野外調査を開始した3地域について、衛星画像とDEMの購入準備と注文が間に合わなかったため。1年度目の調査対象地についての検討が済み次第、2年度目の対象地についても衛星画像とDEMを同様に注文する。本年度は、これらの費用に加えて、鳥類調査の残りと植生調査を実施するための費用、データの分析のための費用等が必要となり、これらを合わせると、最終的には本研究全体を通じて交付決定額と概ね同額の支出を要すると考えている。
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