研究課題/領域番号 |
17K08187
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
篠沢 健太 工学院大学, 建築学部(公私立大学の部局等), 教授 (00278558)
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研究分担者 |
宮城 俊作 放送大学, 教養学部, 教授 (60209872)
木下 剛 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (30282453)
霜田 亮祐 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (00758914)
下田 元毅 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30595723)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 集合住宅地開発 / ニュータウン / 自然環境 / 構造化 / ランドスケープ計画 |
研究実績の概要 |
本研究は、東京・名古屋・大阪等、大都市近郊の集合住宅地とその周辺地域を対象に、集合住宅地開発計画と地域の自然環境特性との関係を把握して集合住宅地のオープンスペースの計画の変遷を明らかにし、その知見から縮退する都市近郊において高度経済成長期に開発された集合住宅地が地域の再編・再生に果たしうる社会資本としての役割を明らかにすることを目的としている。集合住宅地のオープンスペース(以下OSと記す)の計画思想と計画・設計手法の特徴を①空間②機能や、③地域の自然環境構造との関連など、ランドスケープ計画の視点から解明するとともに、「計画史」として編年することを試みている。 これまで既往研究で対象としてきた丘陵地の5つのNT(千里、高蔵寺、多摩、港北NTおよびそれらとは時代背景と開発方針が異なる千葉NT)と、立地条件の異なる低地の団地面開発、埋立地に計画された金沢シーサイドタウン、さらに丘陵地と低地の境界に存在し、埋立用の土取場跡に計画された鈴が峰団地等の集合住宅地を対象としている。これら、立地条件の異なる集合住宅地の開発から、自然環境の構造化過程をモデル化し、その他の集合住宅地への適用を考える。 近年、集合住宅地に関する研究では、その社会的な背景やコミュニティの維持・形成などがテーマとなることが多いが、多くの団地では開発計画の過程で自然環境の読み取りや団地計画における住棟配置、住戸タイプの設計に際して多くの創意工夫や努力が行われていることはあまり知られていない。本研究では、それらの特徴を明らかにした上で、それを凍結保存するのではなく、建替や減築など次の計画において、その開発理念や空間的特徴およびそれに潜む自然環境の構造を継承することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は[集合住宅地開発計画の「構造化の系譜」の裏付け]を行なった。既往研究で対象としてきた丘陵地の5つのNT(千里、高蔵寺、多摩、港北、千葉NT)と、低地の団地面開発、埋立地の金沢シーサイドタウン、鈴が峰団地等の集合住宅地のうち、30年度は、海岸埋立地の金沢シーサイドタウンと、埋立用土取場の鈴が峰団地の2つのNTについて前年の2本の学会発表を行ない、鈴が峰団地については1本の学術論文をとりまとめた。これらの成果を含めて、開発の経緯と集合住宅地開発における自然環境の構造化過程についてダイアグラムの検討を行った。鈴が峰団地については、引き続き、団地の継承「住み継ぎ」に関しても検討を進めている。 また、NT開発における自然環境「構造化」モデル(以下「構造化」モデルと記す)も引き続き検討している。丘陵地の千里NT、高蔵寺、多摩、港北NTに加え、千葉NTおよび低地の集合住宅についても検討を進めており、とくに検討の余地が残っていた多摩NT、千葉NTについては、環境省自然環境現況調査及び明治期の迅速測図をベースとしたNT環境特性基盤図を作成して両者の特性を比較し、NT開発方針と時代背景の関連について把握しつつある。 これまで検討してきた「構造化」モデルの妥当性、考察した仮説の検証については、NT開発計画に携わった有識者へのヒアリングや文献収集調査などから、要因となった立地特性、計画設計技術、当時の社会・経済的背景等を確認して構造化の系譜を裏付けつつある。なかでも上野泰氏、曽宇厚之氏がNT開発計画思想として提唱した「第2の床」の概念整理を行い、それを建替を迎える団地の評価と、建替への計画理念の継承の基礎に位置付けを行なっている(なお有識者ヒアリングに関しては先方の都合等で平成30年度には行うことができなかった)。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成31年度は[集合住宅地開発計画「構造化の系譜」の試行・検証]を行い、地域の自然環境と集合住宅開発計画史「年表」を完成させる。「構造化」モデルのダイアグラムやそれを的確に説明する図版を作成・検討しつつ、さらに計画の時代背景を含む有識者による年表の読解の軸と視点を明確にしていきたい。上記「構造化」モデルの1部を2019年度日本造園学会全国大会ポスターセッション(2019年5月25日、つくば市)で発表する予定である。 元住宅公団技術者へのヒアリング(第2弾)は平成31年度(令和1年度)に確約済である。またキーパーソンの上野泰氏、曽宇厚之氏については最終年度の実現を目指す。いずれもご高齢のため予定は確実ではないが、準備のため発言を記録した資料論文等の収集を終えている。 最終的に、都市近郊集合住宅地において地域の自然環境がどのように「構造化」されたか?どのような「潜在的な」可能性を有しているか?を明らかにして、それらを少子高齢化と都市の縮退などの課題に活かすためのランドスケープ計画論における方法論を検討する。これについては現在建替が進行中で一部すでに団地建替が完了している低地の集合住宅地(草加松原団地)を対象に、建替計画を入手し、現地調査を実施してその特徴を把握した上で、計画設計に関わった担当者に継承の方針・考え方と自然環境構造の活用の方法論を聞き取り調査する予定である。 最終的に計画策定者、設計者や行政担当者や市民が利用可能な団地建替と継承のあり方を示すマニュアルを、企画計画設計の初段段階を踏まえて作成することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も研究代表者の執行率は100%であったが、研究分担者に未執行額が生じたため、次年度使用額が発生した。研究計画では初年度、次年度に分けて研究分担者へ研究費を配分したが、平成30年度の活動にも研究内容の整理および研究計画の準備など、予定していた予算支出を伴わない活動があった。平成31年度は最終年度であり、これまで準備してきた内容に基づいて適切に支出することとし、物品費・旅費等についても、予定していた使途を考慮しつつ新たな研究計画に応じて使用していく予定である。
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