野生動物の観察は偶発的遭遇機会に頼る場合が多いが、特定の場所を巣として集中利用する動物では、こうした営巣地を人為的に設置することで遭遇機会が高められる。本研究では、未開拓の観察対象動物として巣穴に依存して生活するニホンアナグマ(以下、アナグマ)に着目し、人工的に巣穴を設置することで観察機会を高める実験を実施した。天然巣穴を模した2種類の人工巣穴ー出入口からの分岐が1つで屋が2つの2室1穴タイプ(人工巣A)・出入口が2つで分岐と部屋が1つずつの1室2穴タイプ(人工巣B)ーを各3基作成し、GPS装着アナグマの追跡により明らかとなった3家族の行動圏内にそれぞれ1ヶ所ずつ、合計6ヶ所を選んで埋設した。人工巣穴の前にセンサーカメラを設置し、アナグマによる人工巣穴の利用状況を記録し、1時間毎のワンゼロサンプリングで17タイプに分類した行動の頻度を集計した。その結果、6基中4基の人工巣でアナグマの利用を確認した。アナグマの総撮影のべ頭数は121頭であり、人工巣Aでは、103頭、6頭、0頭、人工巣Bでは、11頭、1頭、0頭であった。撮影のべ頭数が最大だった人工巣Aの1ヶ所では、下記に10日間連続で撮影できたこと等から、寝床として利用している可能性が高かった。巣穴付近での行動として、「全身入る」45回、「排糞・排尿」19回、「巣材の掻き入れ」7回を確認し、さらにはペア個体での訪問ならびに「交尾」を8回確認した。他の3ヶ所の人工巣では連続撮影がないことから寝床としての利用はないと考えられた。寝床利用が示唆された人工巣は2室1穴タイプのみであり、複数の部屋構造がアナグマによる巣穴利用に重要な要因となった可能性が示唆される。以上から、複雑な構造を有する人工巣の設置は、観察遭遇機会や行動の多様性を高める効果があり、アナグマの観察資源の価値向上に貢献することが示された。
|