地球規模の気候変動を背景とした食料の安定供給のためには、植物の環境応答機構を理解すると同時に、その成果を下にデザインされた遺伝子組換え植物の作成 と利用が必須となると考えられている。環境応答機構の中でも、特に病害による植物の生体防御機構の理解は、植物の資源利用効率の向上に大きく貢献するもの と考えられている。現在までに、植物の防御応答に関して様々な抵抗性遺伝子について解析が行われてきた。しかし、細胞内でのプログラムについての研究がほ とんどである。細胞外つまり細胞壁空間についての植物の病害抵抗性についての知見は、ここ30年大きな進歩がなされてきていないのが現状である。宿主植物 の細胞外から攻撃をかける植物病原体との最初の攻防は細胞壁で行われる。しかし、病害による植物の生体防御機構の理解は、細胞外つまり細胞壁空間について の知見は、その細胞壁構造の複雑さ故に、ほとんど明らかにされてこなかった。本研究課題の目的は、細胞壁バイオマーカーの同定と作物の病害抵抗性診断系の 構築、そして細胞壁改変することにより新規病害抵抗性作物作出の技術基盤構築にある。本年度、申請者が既に有している細胞壁改変イネライブラリーから病害 抵抗性向上に有効な株をスクリーニングしたところ、ペクチンとヘミセルロースの改変イネ2種類で病害応答性の向上が観察された。イネ培養細胞を用いてそれ ら細胞壁多糖の分解物を投与したところ、病害応答性の指標である活性酸素の発生が確認された。また、いもち病感染細胞ダイセクションマイクロアレイによる網羅解析を行ったところ、病害応答性にリンクする有力なレセプタータイプキナーゼ(RLCK)を2遺伝子まで絞り込んだ。これら2つのレセプタータイプキナーゼは、オリゴガラクツロン酸とキシロオリゴ糖によって、誘導がかかることが示された。
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