研究課題/領域番号 |
17K08193
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大徳 浩照 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 講師 (30361314)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | FOXO1 / アセチル化 / 糖代謝 / グルコース / 線虫 |
研究実績の概要 |
血糖値の恒常性や寿命調節の鍵となる転写因子FOXO1は、リン酸化に加えてアセチル化制御を受けることが知られていたが、アセチル化修飾の引き金となる生理的条件は長年不明であった。本研究では、「過剰なグルコース代謝が細胞内のアセチルCoA量を上昇させることでFOXO1のアセチル化を亢進する」という新たなメカニズムを提唱し、培養細胞、線虫、マウスを用いたin vitro、in vivoの両面から解析を進める。平成30年度の研究実績は以下の通りである。 (1) ヒト肝がん由来細胞株HepG2およびヒト胎児腎臓由来細胞株HEK293Tを高グルコース培地で24時間培養したところ、内在性FOXO1のアセチル化の亢進が認められた。 (2) 高グルコース培地での培養条件下では、活性酸素が産生することが知られている。FOXO1のアセチル化亢進と酸化ストレスの関連性を検証するため、抗酸化作用を持つNAC (N-acetyl-L-cystein) 処理を行った。高グルコース培地下でのFOXO1のアセチル化亢進は、NAC処理で阻害されなかったことから、この現象に酸化ストレスは無関係であることが示された。 (3) FOXO1のオルソログであるDAF-16を過剰発現するTg線虫を2%グルコース添加培地で飼育したところ、DAF-16のアセチル化の亢進がみられた。この飼育条件下では寿命の有意な短縮が認められ、その効果はdaf-2でも同様であったことから、AKTシグナルによるリン酸化とは独立したメカニズムが示唆された。 (4) ATP-クエン酸リアーゼACLの線虫オルソログであるacly-1とacly-2をそれぞれノックダウンしても寿命の有意な延長は見られなかった。グルコース添加培地での寿命への影響については、現在も検討を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
哺乳類細胞株を用いた高グルコース培養条件下でのFOXO1のアセチル化の解析は当初の計画通り進んでいる。一方、線虫個体におけるグルコースと老化の関係については、ヒトのACLのオルソログが線虫では2遺伝子存在し、同時にノックダウンすることが困難なことから、クエン酸からアセチルCoAを合成する代謝経路が寿命にどのような影響を与えるかについて、明確な答えが得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞を用いた系では、高グルコース培地での培養条件下で実際にクエン酸やアセチルCoA量が上昇すること、またその上昇がACL依存的であることをLC-MS/MS分析によって実証する。 線虫を用いた系では、acly-1とacly-2について、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集でnull変異体を樹立する。なおacly-1は変異体が存在するが、lethalであると報告されているため、acly-2の変異体作製を優先する。また老化の指標として、寿命測定に加えて、solid media上での移動距離やliquid media中での運動量、熱・活性酸素、紫外線に対するストレス耐性も評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も消耗品や試薬についてコスト管理を徹底したことで、線虫の維持にかかる費用を大幅に削減できた。繰り越し分は、質量分析に係わる試薬や抗体等の購入費用にあてる。
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