研究課題
葉緑体遺伝子の発現制御におけるペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質ファミリーの分子機能を解明することを目的として、PPR遺伝子ノックアウト株の作製と機能解析、標的RNA分子の同定と結合RNA領域の決定を行った。本年度は2種のPPRタンパク質(PpPPR_66とPpPPR_21)の機能解明について大きな進展があった。(1) ヒメツリガネゴケのPpPPR_66をノックアウトした変異株(KO株)を作製しその特性を調べた。KO株は野生株と同程度の原糸体の生育速度を示したが、葉緑体NADH dehydrogenase-like (NDH)活性の欠失と葉緑体NDH複合体が形成されていないことを明らかにした。KO株において葉緑体ndh遺伝子の発現に影響が出ている可能性を探るため、葉緑体ゲノムに存在する11種のndh遺伝子の発現レベルを調べた。その結果、ndhA pre-mRNAのスプライシングが全く起っていないことを見いだした。シロイヌナズナのPPR66ホモログ(At2g35130)のT-DNA挿入変異株でも、ndhAのスプライシングが起っていないことを明らかにした。以上の結果は、PpPPR_66とPPR66ホモログ(At2g35130)が機能的に相同であり、コケ植物から種子植物まで進化的に保存されていることを示している。さらに、組換えPpPPR_66を用いたin vitroのRNA結合実験を行い、PpPPR_66がイントロンの5’末端側領域に特異的に結合することを明らかにした。(2)PpPPR_21 KO株を取得し解析を行った。KO株では光化学系Ⅱ(PSⅡ)機能低下とPSⅡ複合体形成不全が観察された。葉緑体ゲノム全域をカバーするタイリングマイクロアレイ解析を行い、KO株における葉緑体遺伝子の発現レベルを野生株のものと比較した。その結果、PSⅡの小サブユニットをコードするpsbI遺伝子の発現レベルが顕著に低下していることを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
PpPPR_66の機能を解明しその成果をPlant Journal誌に発表した。さらに、PPRタンパク質の標的RNAを迅速に同定する実験系として、今年度新たに導入した葉緑体ゲノムタイリングマイクロアレイを用いて、PpPPR_21が作用する標的RNA分子候補を迅速に絞り込むことができた。他にも多数のPPR遺伝子ノックアウト株を取得できたので、進捗状況としてはおおむね順調に進展しているとした。
(1)これまでに取得した多数のPPR遺伝子ノックアウト株の中には、植物体の生長や外部形態、光合成能が野生株のものと違いが見られないものがある。これらの中にはNDH活性が異常となっているノックアウト株が含まれている可能性があるので、次年度NDH活性を検出するためのクロロフィル蛍光強度測定を行う予定である。(2)NDH活性にも異常が見られないノックアウト株については、葉緑体ゲノムマイクロアレイを用いて葉緑体遺伝子発現レベルの僅かな影響を見逃さないよう定量的な解析を行う。(3)ノックアウト株が取得できなかったPPR遺伝子については、植物の生存に必須の機能をもつことが予想される。例えば、PpPPR_66のノックアウト株は取得できたが、PpPPR_66のパラログと推定されるPpPPR_72のノックアウト株を取得することができなかった。そこで、PpPPR_72についてはノックダウン株を取得し機能解析を進める。
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Plant J.
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