研究課題
葉緑体遺伝子の発現制御におけるペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質ファミリーの分子機能を解明することを目的として、ヒメツリガネゴケを用いて研究を行った。今年度の主要な成果は下記の通りである。(1) PpPPR_21遺伝子ノックアウト変異株(KO株)で、光化学系II (PSII)機能の顕著な低下とPSII複合体の形成不全が観察された。その原因について詳細に解析した結果、KO株ではPSIIの低分子サブユニットをコードするpsbI遺伝子とPSII複合体形成に関わるycf12遺伝子の共転写物が全く蓄積していないことを明らかにした。さらに、in vitroのRNA結合実験を行い、PpPPR_21がpsbI mRNAの5’非翻訳領域および翻訳領域に特異的に結合することを明らかにした。PpPPR_21はpsbI-ycf12 mRNAの安定性に働いていることが強く示唆される。本成果をPlant J.に発表した。(2) 当研究室で作製したPpPPR遺伝子KO株ライブラリーの中から、野生株と同程度の原糸体の生育速度を示し、かつ葉緑体NADH dehydrogenase-like (NDH)活性を欠く2種類のKO株を取得した。葉緑体NDH複合体サブユニットをコードする11種の葉緑体ndh遺伝子の発現レベルが野生株とKO株とでほぼ同程度であった。(3) シチジン(C)からウリジン(U)へのRNA編集にPPR-DYWタンパク質が働いている。PPR領域が特定のRNA編集部位の認識に働くことが分かっていたが、DYWドメインの役割は不明であった。そこで、RNA編集におけるDYWドメインの役割を明らかにするため、特定のRNA編集だけが起こらない変異株に、様々なアミノ酸変異をDYWドメインに導入した変異PPR-DYWをRNA編集欠損変異株で発現させ、RNA編集の回復レベルを調べた。その結果、DYWドメインの37番目から42番目のアミノ酸領域がRNA編集部位特異的認識に寄与していることを初めて明らかにした。本成果をPlant & Cell Physiol.に発表した。
2: おおむね順調に進展している
PpPPR_21の分子機能を解明しその成果をPlant Journal誌に発表した。さらに、これまで取得した多数のPPR遺伝子ノックアウト株をスクリーニングした結果、葉緑体NDH複合体の形成に関与すると予想される2種の候補PPRタンパク質を絞り込むことができたのは大きな前進である。以上の理由から、概ね順調に進展していると判断した。
最終年度は当研究室で保有している多くのPPR遺伝子ノックアウト株の分子的特徴付けを進める。そのため、葉緑体とミトコンドリアのゲノム全域をカバーするタイリングオリゴアレイを用いた解析を行い、遺伝子発現レベルの僅かな影響を見逃さないよう最新の注意を払いながら進める。しかし、本解析はRNAの蓄積レベルやRNAスプライシング、RNAプロセシングの異常を検出するには有効であるが、mRNAの翻訳レベルでの影響を検出できないのが難点である。そこで、RNA-Seq解析を取り入れたリボソームプロファイリングを行い、mRNAの翻訳レベルでの制御の可能性も調べていく。
今年度発表した論文についてはオープンアクセスを選択しなかったため論文掲載料分の余剰が生じた。最終年度は論文をオープンアクセスにするため、余剰分をオープンアクセス料に充てる計画である。したがって、次年度は英語論文校閲(10万円)、論文掲載料(40万円)、消耗品代(55万円)、旅費(10万円)、その他(10万円)に使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
The Plant Journal
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Plant & Cell Physiol.
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http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/paper/index.html