研究実績の概要 |
葉緑体遺伝子の発現制御におけるペンタトリコペプチドリピート(PPR)タンパク質ファミリーの分子機能を解明することを目的として、PPR遺伝子ノックアウト株の作製と機能解析、標的RNA分子の同定を行った。本年度はヒメツリガネゴケの2種のPタイプPPRタンパク質(PpPPR_64とPpPPR_32)の機能解明について大きな進展があった。 (1) PpPPR_64遺伝子ノックアウト変異株(KO株)では光化学系Ⅱクロロフィル蛍光強度収率が低下し、光化学系超分子複合体の形成が不完全であることを明らかにした。その要因について詳細に解析した結果、KO株では光化学系1の反応中心サブユニットをコードするpsaA-psaB遺伝子の発現レベルが野生株の3分の1に減少していることを明らかにした。このことから、PpPPR_64はpsaA-psaB遺伝子の転写または、psaA-psaB mRNAの安定性に働いている可能性が高いことが示唆された。 (2) PpPPR_32 KO 株では、光化学系 I の形成に必要な ycf4 と、光化学系 I のサブユニットをコードする psaC, psaJ の転写物の蓄積量が減少していることを見出した。3 つの遺伝子は光化学系 I 複合体形成に必要な遺伝子であるため、 KO株で生育遅延が起こり、光合成活性が低下したという結果と一致する。これらの結果より、PpPPR_32 は葉緑体ゲノムの 3 つの遺伝子(ycf4, psaC, psaJ)の蓄積に必要であることが示唆された。また、ycf4, psaC, psaJの遺伝子それぞれに PpPPR_32が結合可能であると予測される配列が存在する。標的遺伝子に対する PpPPR_32 の機能として、転写物の安定化の制御、または転写の制御に関わっている可能性が考えられる。
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