老化は生育に伴う内生的な刺激や環境の変化(ストレス)により制御されているが、植物ホルモンはそれらのシグナルを伝達する上で重要な機能を担っている。これまでにサイトカイニン、エチレン、オーキシン、アブシジン酸、サリチル酸やジャスモン酸など数多くの植物ホルモンの関与が示唆されているが、その仕組みは複雑で未解明の部分が多い。本研究では老化の開始や進行を制御する分子メカニズムを解明し、農作物の増収や収穫後の品質保持やコスト削減を可能とする新品種の作出のための基盤研究を行うことを目的としている。昨年度までに行った研究により、MAPKKK17、MAPKKK18過剰発現では、開花の促進に関係する遺伝子群が早期に発現誘導されること、また、サリチル酸やジャスモン酸に応答する遺伝子群に発現の変化が見られたことから、MAPKKK17/18-MKK3-MPK1/2/7/14経路が、ストレス応答性の開花促進に関与し、その結果として、葉の老化が促進したと考えられた。今年度は、MAPKKK17、MAPKKK18過剰発現でストレス応答性の遺伝子の発現変動が見られたことから、葉の老化にも関係し、農業上重要な、昆虫の食害に対する抵抗性や応答遺伝子の変化について、検証を行った。ハスモンヨトウ食害を受けたシロイヌナズナではマーカー遺伝子の発現上昇など一般的な食害反応が起こること、その際にMAPKKK17、MAPKKK18 の発現量も上昇していることが分かった。そこでMAPKKK17 過剰発現体、MAPKKK18過剰発現体をエサとしてハスモンヨトウの飼育を行った結果、MAPKKK17 過剰発現体、MAPKKK18 過剰発現体で飼育した幼虫は成長が抑制される傾向にあり、MAPKKK17/18の過剰発現が昆虫の食害に対しても有用な形質を示すことがわかった。現在これらの成果について、論文にまとめているところである。
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