イントロンによるタンパク質の発現増強機構はIntron-Mediated Enhancement (IME)として知られているものの,そのメカニズムの全体像は明らかになっていない。2019年度は発現する遺伝子中のIMEに関わる配列,および,網羅的遺伝子破壊株セットを用いたIME関連遺伝子の探索と機能解析を進めた。 これまでに,おなじアミノ酸配列をコードするが塩基配列の異なるルシフェラーゼhCLucとyCLucが,イントロンによる発現増強の性質が異なることを利用して,開始コドンから100~150 bpの領域が発現増強に関わることを決定した。yCLucのこの領域の配列を,遺伝子全合成の手法を用いて,アミノ酸配列は変えずにヌクレオチド配列をランダムに変え,発現増強に重要なヌクレオチドの同定を試みた。得られたランダム変異体の活性は様々でイントロンを与えた場合と同程度の活性を持つものが複数得られた。これら活性が高い変異体の配列を比較したところ,yCLucで見られた使用塩基の偏りが緩和されていることが明らかになった。 さらに,CLucの他にS. cerevisiaeでイントロンによる発現増強を受けるタンパク質を探索し,yCLucと同様に酵母コドンに最適化された酵素の発現が非常に低く,イントロンを与えることで大きく発現が増強される配列を得ることができた。 S. cerevisiae遺伝子破壊株セットを用いたIME関連遺伝子の同定では,IMEを引き起す遺伝子の絞り込みを行い,最終的に1遺伝子を同定した。さらに,イントロンが無くても遺伝子破壊によりyCLucの発現増強を引き起こす変異株も探索し,いくつかの変異株を同定した。これらの株でのルシフェラーゼmRNA量を解析し,転写レベルで関与するものと,そうでないものに分類した。
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