研究課題/領域番号 |
17K08203
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齋藤 望 東北大学, 薬学研究科, 助教 (40636411)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 二重ラセン / ヘリセン / オリゴマー / 自己組織化 / 異方性 / 液晶 / 超長鎖アルカン |
研究実績の概要 |
本研究は,エチニルヘリセンオリゴマーの動的で可逆的な二重ラセン‐ランダムコイル構造変化を利用してマクロスケール運動機能性物質を開発することを目的とする.エチニルヘリセンオリゴマーの性質を分子構造によって精密制御したのち,自己組織化によって多数の分子が異方的・三次元的に集合した動的システムを構築する方法論を開発する.異方的なマクロ自立物質をボトムアップ的に構築し,構造変化に伴う分子長変化を増幅することで,マクロスケールの異方的な伸縮運動に変換する.今年度は,以下のことを行った. 1)異方的な集合体を得るため,末端にビシクロヘキシル骨格を含むサーモトロピック液晶部を有するオリゴマーを設計した.複数のモデル化合物を新規合成し,液晶性を検討した.いずれも液晶性を示さず,現在構造の検討を続けている. 2)末端部にトリエチレングリコール部を有するオリゴマーについて,水系溶媒中で特異な熱応答を示すことを既に見出しており,この溶媒効果を詳細に調べた.次に,Langmuir-Blodgett膜を作成して異方性物質を得る予定であったが,擬鏡像異性体と混合するとリオトロピック液晶性を発現することがわかったので,計画を一部変更して詳細を調べた.液晶から溶媒を除去すると表面上で長距離秩序を有する固体を形成した.電場や磁場などの配向場を要せず小分子の自己組織化によって長距離秩序を発現した希少な例であり,異方性物質構築のために有益な結果である. 3)超長鎖アルカンの結晶性を利用して異方的多層構造を得るために,炭素数128の超長鎖アルカン部を末端に有するオリゴマーを設計した.この超長鎖アルカンの誘導体について,均一分子量の化合物を高純度で合成する方法を検討し,各種測定に十分な量を合成した.この化合物について物性を調べ,固体状態においては分子が伸長したラメラ構造をとることなどを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始時の予定では,当該度には以下のことを行う予定であった.(1)以前合成したサーモトロピック液晶部を末端に有するオリゴマーの液晶性について,詳細を調べる.(2)トリエチレングリコール部を末端に有するオリゴマーについて,溶液中での分子レベルの会合挙動の詳細を調べる.また,トリエチレングリコール部を側鎖に有するオリゴマーの挙動と比較する.(3)超長鎖アルカン誘導体を複数合成し,この両末端にオリゴマーを連結する. (1)について,望む物性を有する可能性が高い末端部を設計し,この合成を行った.現在までに望む液晶性は得られていないが,目的実現のためにより適すると考えられる化合物の検討をすすめており,計画以上に進行しているといえる. (2)水系溶媒中での特異な熱応答について,当初の計画通りに溶媒効果を詳細に調べ,類似化合物との会合挙動の違いについても知見を得た.つづいて,擬鏡像異性体と混合するとリオトロピック液晶形成を発現することを見出し,さらに表面上で長距離秩序を有する固体を形成することを見出した.これは,マクロレベルの広範囲にわたって異方性を有する物質を構築して運動機能に結びつける本研究において有用な結果である.Langmuir-Blodgett膜を作成して異方性物質を得る当初の予定から変更があったが,計画以上に進行しているといえる. (3)超長鎖アルカン誘導体として,炭素数128の1,ω-アルカンジオールを合成した.当初の計画のようにオリゴマーの両末端への連結は行っていないが,一方で,固体状態での構造や溶解における挙動などの物性を調べた.1,ω-アルカンジオールは炭素数46 までの化合物しか合成例がなく,学術的にも価値がある.また,これらの性質は,今後研究をすすめるうえで重要となる.よって,計画以上に進行しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでに得られた結果に基づき,一部の変更を加えながら基本的には当初の計画に沿って研究を推進する. (1)末端部の分子構造の検討を続け,望む液晶性と物性を得る.これをオリゴマーの末端に連結し,サーモトロピック液晶性および構造変化を調べる.液晶状態において二重ラセン‐ランダムコイル構造変化を行う.つづいて,ポリマー化またはエラストマー化を検討し,マクロ自立物質を得る. (2)擬鏡像オリゴマー混合物のリオトロピック液晶形成と長距離秩序を有する固体形成について,異なる分子構造を有する誘導体を用いて系統的に知見を得る.これによって,単一ドメインの異方性物質を得る方法を検討する.また,Langmuir-Blodgett膜作成によって異方性物質を得る方法も検討する. (3)超長鎖アルカン誘導体をオリゴマー末端に連結することを検討する.ただし,これまでに得られた知見から,超長鎖アルカン誘導体の有機溶媒に対する溶解性は一定温度以下では極めて低いことがわかっている.これを連結したオリゴマーの合成および応用が本研究の目的達成のために適しないと判断した場合には,アルキル鎖の鎖長を短いものに変更する,またはオリゴマー部とアルキル部の間に溶解性を向上させることができる部位を導入するなど,分子設計を変更することを考えている.この化合物を用いて,当初の計画のような異方的多層構造の構築を検討する.
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