研究課題/領域番号 |
17K08205
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
荒井 秀 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (20285224)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遷移金属触媒 / アレン / ニッケル / アルカロイド / 選択的化学合成 / 環化反応 / シアノ化 |
研究実績の概要 |
有用分子を出来る限り短工程で合成するには、分子の機能を司るカタチ(骨格)の組み上げと、選択的な官能基導入の同時実現が必須である。従来の合成手法では、それぞれ別個に行う場合が多いため合成効率が必ずしも高くない。申請者は、適切な触媒系の設計・構築を目的として、上記を同時実現する新規物質合成法の確立に成功した。 集積2重結合を有するアレンの位置・立体・面選択的な官能基化を考案して、様々な有用分子の合成に成功している。特にニッケル触媒による位置及び立体選択的シアノ化反応を基盤とした新手法では、アルカロイド(カイニン酸、ケブラカミン)の形式合成に成功し、コバルト触媒によるラジカル環化反応ではシアノ化・セレニル化反応に加えて、芳香環CH官能基化を伴う環化反応の開発にも成功した。アレンー銅触媒では、スルホニル化を基盤とする位置及び立体選択的合成反応を見いだし、ねじれたジエン構造の創生にもつながった。 また、単純アレンの2重結合を明確に区別する基本技術の創出にも成功している。従来法に見られるアレン官能基化では、1置換型や電子吸引基など限定された基質に置いてのみ、実現可能であった。筆者が考案した手法では、単純基質から複雑官能基化された双環性分子を迅速かつ簡便に合成できる。本手法では、高い位置・立体選択性を発現し、分子間・分子内反応ともに適用可能であることを実証した。計算化学を利用した反応機構解析によって、各種選択性の発現機構も明らかにした。より高度な複雑分子構築に応用展開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニッケル、コバルト・銅触媒系をそれぞれ考案し、それぞれの反応系に適切な反応基質の組み合わせを明らかにした。 ニッケル触媒:シアノ化を基盤とするアルカロイド合成、アレンの軸不斉転写に成功した。アレンとNi(0)種との高い化学親和性を見出し、単純アレンが位置・立体選択的に化学変換される基本原理を明らかにした。新規[2+2+2], [4+2], [2+2]環化付加反応を独自に見出し、複雑分子合成における新手法の確率に成功している。 コバルト触媒:置換様式の異なる多様なアルケンが、コバルト触媒によって明確に区別され、単一反応経路で複雑環化成績体に変換される新規合成手法を確立し、天然物の基本骨格合成にも成功している。また不活性な芳香族CH結合の切断を経由する新しいヒドロアリール化反応の確立にも成功した。 銅触媒:安価な銅は実用的化学変換において重要な触媒種である。申請者は、アレンのスルホニル化に着眼し、位置及び立体選択性が高度に制御されることを見出した。 いずれの触媒系も前例がなく、1工程で分子の骨格構築と官能基を同時實現するユニークな手法である。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究展開は、触媒に焦点を当ててアニオン及びラジカル中間体の創生と応用である。今後は、触媒だけでなく反応系全体を商店に当てた「カチオンの化学」を展開する。 無尽蔵に得られる光エネルギーを化学反応の駆動力に用いれば、省エネルギー・単工程の理想的反応系の構築となる。現在、光触媒を利用するアレンの選択的化学変換に取り組んでおり、ある種の触媒においてが円滑に反応が進行することをすでに見出している。今後は、計算化学を駆使した機構解析から適切な触媒及び基質設計を行い、実用的な新規分子変換の構築を目指す。
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