適切な官能基を適切な位置・立体化学を保持したまま化学合成する基本技術の創出を目指し、アレンを用いる新規環化反応に着眼した。非対称2置換アレンを用いる位置及び立体選択的なヒドロシアノ化環化で得られた治験を利用して、[2+2+2]環化付加反応に展開した。本反応系では、ニッケル触媒によるメタラサイクル形成時の位置選択性が反応経路決定に重要であり、アレンインと単純アレンの分子間環化付加において、異なる5つの不飽和結合が存在しても生成物は一義的に決まることを見出した。位置選択性は完全に制御され、且つ選択性発現理由もDFT計算から明らかにすることができた。非対称分子を基質に用いる[2+2+2]環化反応としては画期的な成果であり、公表結果はAdv. Synth. Catalysis.のcover pictureに採用された。 同様に、共役アレンエンを炭素ユニットに用いれば特徴ある環化付加反応が円滑に進行することを見出した。この反応では、触媒の酸化数によって反応経路が厳密に制御され、異なる炭素骨格(環化様式)を与える。Ni(0)触媒では、円滑に[4+2]環化付加生成物を与え、Ni(II)触媒では[2+2]環化付加体を与える。触媒中心(ニッケル)が反応初期にどの官能基を活性化するかで、反応経路に差が生まれ異なる生成物に至ることを計算科学によって明らかにした。 コバルト触媒系では、エナミン基質が極めて高い反応性を示し、ベンゼン環との分子内縮合によって含窒素複素環化合物を効率的に合成する新技術を確立した。本反応系では、芳香環の電子密度が選択性発現に重要であり、ベンジル基とベンゾイル基が明確に区別され後者だけが選択的に反応することを見出した。 上記の結果は、いずれも複素環の触媒的合成における新知見であり、新物質合成や複雑分子合成など今後の応用展開が期待される。
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