研究課題/領域番号 |
17K08206
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
嵯峨 裕 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 助教 (20785521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 複核亜鉛錯体 / 光レドックス触媒 / 多機能触媒 / 不活性C-H結合活性化反応 / 超分子化学 / 亜鉛クラスター |
研究実績の概要 |
C(sp3)-H結合からの有機金属求核活性種の生成と、不斉変換を可能にする新規協奏触媒の創製に向けて研究に取り組んできた。 まず、申請書に記載していた通り第一目標である金属錯体種のレドックス機能部位の精密設計に注力し、各種1電子リザーバー配位子の検討、合成を行った。検討を続けていく中で、反応への応用報告例が稀有である、独自のビピリジル含有骨格が光触媒として働きうることを見出した。計画段階におけるモデル反応は進行しなかったものの、別のモデル反応として、酸素雰囲気下、室温下、光照射条件における不活性ベンジル位C(sp3)-H結合の酸化反応が、中程度の収率で進行することを見出した。更なる検討の結果、光触媒機能と金属触媒種を同一分子内に併せ持つ新規2核亜鉛錯体種の開発に成功し、またこれを用いることで上述した不活性ベンジル位C(sp3)-H結合の酸化反応が最高収率で進行することも見出した。本酸化反応が、酸化剤フリーかつ室温下、分子状酸素を用いる条件で進行する例は少なく、我々の新規触媒系の発見は意義深いと考える。 加えて本新規亜鉛錯体種の光化学的、錯体化学的解析実験も行い、X線結晶構造解析の結果から本新規2核亜鉛錯体種が、12つの亜鉛原子を有するtetra-clusterを形成していることが示唆された。本研究室で深い知見の蓄積を有する超分子化学への応用も併せて検討しており、リン酸エステルの脱リン酸化反応への反応活性を有することも見出し、脱リン酸化人工酵素への応用も視野に入れている。 また、第2目標である不斉機能部位の設計においては、大環状ポリアミンユニットに不斉誘導部位であるアミノ酸と第2の不斉制御部位を導入した新規亜鉛錯体を開発し、不斉アルドール反応が極めて高いSyn選択性と不斉収率で進行することを見出している。今後これら知見を同一錯体内に搭載した、協奏触媒系の創製に取り組みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたモデル反応である炭素炭素結合形成反応は進行しなかったものの、、独自のビピリジル骨格が光触媒として働きうることを見出し、それを基盤に新たに合成、設計した新規2核亜鉛錯体が分子状酸素による不活性ベンジル位C(sp3)-H結合の酸化反応を触媒することを見出した。また本錯体種が光レドックス機能と金属錯体を同一分子内に併せ持ち双方の機能を発現することが示唆された。 X線結晶構造解析から、本新規錯体種が12つの亜鉛原子を有しネットワークを形成した、非常に興味深いtetra-cluster構造を形成していることも見出している。加えて、本亜鉛錯体種はイミド類縁体、銅と水中で混合することで超分子ネットワークを形成することを見出すとともに、不活性ベンジル位C(sp3)-H結合の酸化反応のみならず、リン酸エステルの脱リン酸化反応への反応活性を有することも分かった。本新規亜鉛錯体種を用いて、エピジェネッティク化学修飾である脱リン酸化を制御しうる、人工酵素型超分子触媒への応用も視野に入れている。 不斉機能部位においても、大環状ポリアミンユニットに不斉誘導部位であるアミノ酸と第2の不斉制御部位を導入した新規亜鉛錯体を開発し、不斉アルドール反応が極めて高いSyn選択性と不斉収率で進行することを見出している。上述した、新規亜鉛錯体種に本不斉誘導部位を組み込むことは合成上極めて容易であり、現在検討を行っている、 当初設計した配位子、金属錯体種とは異なるものの、光触媒機能を有する新規亜鉛錯体種の設計と合成を行い、その新たな予期せぬ機能、触媒活性、超分子化学への応用も見出すことができたため概ね順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、光触媒機能と金属触媒種を同一分子内に併せ持つ新規2核亜鉛錯体種の開発に成功し、またこれを用いることで不活性ベンジル位C(sp3)-H結合の酸化反応が最高収率で進行することも併せて見出した。また、不斉誘導機能部位を有する新規亜鉛錯体の開発と不斉アルドール反応への応用にも成功している。今後は、本知見を組み合わせ、同一錯体内に多機能を有する協奏金属錯体種の開発、また不斉炭素炭素結合形成反応への応用に注力していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度、物品購入において適切な購入可能物品がなかったため3160円の当該次年度使用額が生じた。2019年度、物品購入費として適切に使用させていただきたい。
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