低反応性有機化合物、またその活性化が困難である不活性化学結合からの有機金属求核活性種の生成と、不斉変換を可能にする新規協奏触媒の創製に向けて研究に取り組んできた。その中で、低反応性有機化合物の高難度変換を実現する、3つの新規金属錯体触媒系の開発に成功した。 1、昨年度までに、反応への応用報告例が稀有である、独自のビピリジル-ピリダジン含有骨格が光触媒として働きうることを見出し、光触媒機能と金属触媒を同一分子内に併せ持つ新規2核亜鉛錯体種の開発に成功した。またこれを用いることで酸素雰囲気下、室温下、光照射条件の温和条件における不活性ベンジル位C(sp3)-H結合の酸化反応が高収率で進行することも見出した。 加えて本新規亜鉛錯体種のX線結晶構造解析の結果から本新規2核亜鉛錯体種が、12つの亜鉛原子を有するtetra- clusterを形成していることが確認された。 2、犠牲還元剤とアシルラジカル等価体の2つの機能を発現する新たな化合物群を見出し、低反応性単純アルケン化合物との分子内ヒドロアシル化反応が金属錯体光触媒存在下、高効率で進行することが分かった。これは、アシルラジカルを経由しない、低反応性単純アルケン化合物への分子内ヒドロアシル化反応が室温下進行した世界で初めての例である。また、CO2存在下にアシル基及びCO2がアルケンに同時挿入する3成分カップリングが進行することも併せて見出している。 3、当研究室で独自に開発したNi5核錯体存在下、低反応性単純アルケン化合物への電気化学的CO2挿入反応に成功した。現在までに報告されている例では、非常に高い電位を必要としてきたが、還元的なNi5核錯体触媒を用いることでCO2を何らかの機構で活性化し、より温和条件における、低活性単純アルケン化合物への電気化学的CO2挿入ヒドロカルボキシレーション反応を達成した。
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