研究課題/領域番号 |
17K08208
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
吉村 智之 金沢大学, 薬学系, 准教授 (20432320)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 天然物全合成 / キラルビフェニル / ベンザイン / アルキルリチウム / 不斉非対称化 / 不斉合成 |
研究実績の概要 |
1)σ-対称カルバニオン種の非対称化による sigillin A の不斉全合成:反応前駆体を 2-メチル-1,3-シクロヘキサジオンから2工程で合成後,ビニルアニオンを経由する不斉非対称化を検討した。本反応を実現するためには,アルキルリチウム試薬によるヨウ素-リチウム交換反応が,ケトンへの付加より速く進行しなければならない。そこで,ヨウ素-リチウム交換反応が最も速い t-BuLi を用いてトルエン中キラルリガンド存在下反応を検討した。その結果,所望の環化体が 61% 収率で得られるものの,その光学純度は 5% と低いものであった。そこで,t-BuLi よりヨウ素-リチウム交換が遅くなる n-BuLi を用いて条件検討した。 その結果,キラルリガンドとして 1,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン存在下,-78 ℃で n-ブチルリチウムを用いて反応を行うと,わずか30分以内に目的の環化体が収率70%、39% ee で得られた。 2)キラルビベンザインを経由する gonytolide A の全合成研究:ビフェニルからビベンザインが発生するかを確かめるべく,gonytolide A 合成に必要な官能基を有するビフェニルを文献に従って合成した。その後、リチウム-ハロゲン交換反応を用いてベンザインを発生させる方法を用いて,フランとの環化反応を検討した。すなわち,-78 ℃でフラン存在下ビベンザインを発生させて反応を行うと所望の環化体がジアステレオマー混合物として 47% で得られることが分かった。そこで,gonytolide A の骨格を構築すべく,α,β-不飽和カルボニル化合物とのヘテロ-Diels-Alder 反応の検討を行った。しかし,所望のビスクロマンは得られず原料回収と複雑な混合物を与えるのみであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的では,ビベンザインを経由するキラルクロマン合成法の開発を初年度に行う予定であった。現在,ラセミ体でビベンザインが発生し且つフランとの Diels-Alder 反応が進行することが分かっているものの,ヘテロ Diels-Alder 反応を達成するためには更なる反応条件の精査が必要である。また、キラルビフェニルの合成およびそれらの物性に関してもこれから検討していく。一方で、σ-対称ジケトンの不斉非対称化も同時に行うことができこちらの反応では,光学純度は低いものの,不斉誘導が起こることが分かった。本課題は,平成30年度より取り組む予定であったが,早くに着手することができ、また良好な結果を得ることができた。以上のことから,ほぼ当初の計画通り研究課題が進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ビベンザインを用いるヘテロ Diels-Alder 反応によるクロマン骨格構築は例が少ない。そこで単純な基質を用いてベンザインとα,β-不飽和カルボニル化合物との付加環化反応の条件検討を行う。特に,ジエノフィルの構造設計には計算化学的手法を用いて,適切なエネルギー準位を持つ HOMO を有するジエノフィルを見いだす。また、キラルベンザインの物性を調べる目的で現在進行してるキラルビフェニルの合成も行っていく。特に,キラルベンザインの光学純度に対する寿命は,不斉誘導に大変重要なファクターである。そのため,キラリビフェニルを合成次第、ラセミ化半減期を実験的に測定する。一方,ビニルリチウムを経由するσ-対称ジケトンの不斉非対称化は,その光学純度の向上を目指し,キラルリガンドの検討を重点的に行う。その後,基質一般性を検証し sigillin A の全合成に向けて合成ルートの開発に展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
キラルなビフェニル合成を検討することが十分できず,不斉補助基の購入が予定よりも少なくなったことが主な要因である。そこで次年度ではキラルビフェニル合成を重点的に行い,キラルビベンザインの物性を明らかにしていく。一方、不斉非対称化のキラルリガンド合成に必要なキラルアミン類の購入も検討している。
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