研究課題/領域番号 |
17K08212
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渕 靖史 九州大学, 薬学研究院, 助教 (40748795)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 分子認識 / 捕捉分子 / ユーロピウム錯体 / 8位酸化グアノシン |
研究実績の概要 |
本研究では細胞中で生成する様々な8位酸化グアノシン誘導体を標的とした、機能性認識分子の開発を目的としている。平成29年度の検討項目としては1)申請者が開発したモデル分子nitroG-Grasp及び8-thioG-Graspの水中での反応性向上のための修飾について有意義な成果が得られたので以下に報告する。また次年度検討予定であった2)ランタノイド金属を導入した新規8-oxo-dGTP認識分子についても、本年度に進行したので以下報告する。 1) nitroG-Grasp誘導体のうち、ベンジルチオール基をもつものは高い反応性を示したため、捕捉反応部位として適用することとした。この化合物にリン酸アニオン認識部位としてグアニジノ基を導入した新規分子を合成し、本研究の標的ヌクレオシドの一種である8-nitro-cGMPと反応させた。その結果、中性水溶液中でも捕捉反応が進行することが分かった。コントロール化合物としてグアニジノ基をもたない分子を合成し反応させたところ、同条件で反応が進行しなかったことから、グアニジノ基のリン酸認識効果が確かめられた。またベンジルチオールのベンゼン環部にメチル基を導入した誘導体も合成・評価したところ、顕著に反応性が向上した。 2) 本研究では長寿命蛍光を用いた水中での8-oxo-dGTP認識分子として、ユウロピウム錯体分子を合成・評価した。その結果、ジメチルアミノ基をリガンドにもつ誘導体で、水中において高い発光特性を示した。また8-oxo-dGTPに対しては選択的且つ濃度依存的に、ユウロピウム錯体発光が消光することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では4つの検討項目を計画しているが、本年度中にそのうち2つがおおよそ完了しつつある。8-nitro-cGMPを標的としたnitroG-Grasp誘導体については生化学的検討へと展開中であり、8-thio-cGMPを標的とした8-thioG-Grasp誘導体開発のための基盤となる知見も得られた。また8-oxo-dGTPを標的としたユーロピウム錯体分子では、より高い発光特性を示す分子設計を計画中である。以上のように、現在までに本研究で開発している機能性認識分子については、新たな展開まで進めているので、順調に進展中であると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度の検討課題1) について、シンプルな分子設計によって非常に反応性が高い捕捉分子を開発することができた。この分子については今後、まず速度論的な解析を行うことで反応性向上の要因を探っていく予定である。この解析に基づいて新たな分子設計も行う。さらに現在、培養細胞を用いた捕捉分子としての機能も検討中である。本研究で開発した捕捉分子が培養細胞中に容易に取り込まれることを蛍光顕微鏡にて確認したので、実際に細胞中の8-nitro-cGMPを捕捉可能かを免疫蛍光染色によって観測していく。培養細胞としてHEK293細胞を用い、実験系を確立できたので捕捉反応時間や濃度等を検討する。また細胞溶解液中などで、捕捉分子が8-nitro-cGMPによるシグナル伝達系下流のタンパク質発現に与える影響をウェスタンブロット等で調べることも計画している。 平成29年度の検討課題2) について、ユウロピウム錯体を用いた世界初の8-oxo-dGTP検出分子を開発することに成功した。しかしながら、発光量子収率や検出感度が低いなどの問題点が明らかになった。基本骨格である1,3-ジアザフェノキサジン環がユウロピウム錯体を励起するアンテナとして効率が悪いことが示唆された。そこで現在新たな基本骨格による分子認識が可能かを計画している。または1,3-ジアザフェノキサジン環にさらに別の骨格を導入することで、分子認識相互作用を増強し蛍光変化量を増やすことを期待している。以上のように今後は、平成29年度の検討項目で発見した課題を研究しつつ、平成30年度以降の標的分子である「8-ブロモグアノシン」に対する捕捉分子にも着手する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度より申請者の所属研究機関異動(九州大学大学院薬学研究院から昭和薬科大学)が決定したため、新しい所属研究期間での準備金として残余させた。必要なガラス器具や試薬を買い直すために使用する予定である。
|