研究実績の概要 |
我々はこれまでに、基質捕捉型配位子であるジヒドロキシターフェニルホスフィン(DHTP)を開発し、様々な位置選択的反応に用いてきた。DHTPとパラジウムから成る触媒を用いると、入手容易なジクロロアニリン類と末端アルキンのオルト位選択的薗頭カップリングと環化によりクロロインドールが得られることを既に報告している。そこで、同触媒を用いる位置選択的反応を活用し、多置換インドール類の合成について検討した。 まず、2,4,6-トリクロロアニリン誘導体から3つの異なる置換基を有する2,5,7-三置換インドール類の合成を行った。反応条件を種々検討した結果、N-アセチル-2,4,6-トリクロロアニリンを基質として用いると、アミノ基のオルト位選択的に薗頭クロスカップリングが進行し、続く環化により5,7-ジクロロインドールが得られた。さらに、本触媒を用いて5,7-ジクロロインドールの熊田-玉尾-Corriuカップリングを行うと、反応はC7位選択的に進行し、5-クロロ-2,7-二置換インドールを得た。最後にC5位のクロロ基を変換することで、3つの異なる置換基を有する2,5,7-三置換インドール類を得た。 また、クロロアレーンを用いるN-無置換インドールのC-Hアリール化を検討した。その結果、本触媒を用いるとインドールのC3位でC-Hアリール化が選択的に進行し、C3-アリール化体が得られることを見出した。一方、DHTP以外の配位子では、N1位選択的に反応が進行しN-アリール化体を得た。DHTPのヒドロキシ基がリチウム塩を介してインドールを捕捉することで、インドールのC3位での反応が加速され、他の配位子と異なる位置選択性を示したと考えられる。本合成法により、様々なクロロアレーンをインドールのC3位に導入した。さらに興味深いことに、3-メチルインドールを基質として用るとC3―二置換インドレニン)が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、パラジウム―DHTP触媒を用いる位置選択的反応の開発の一環として、これらの位置選択的反応を活用する2,4,6-トリクロロアニリン誘導体から3つの異なる置換基を有する2,5,7-三置換インドール類の合成を行った。同触媒を用いる位置選択的反応を活用することで、様々な-三置換インドール類を得ることに成功した。そして、得られた成果をまとめ、論文として発表した。また、学会発表を行った。 また、同触媒を用いるクロロアレーンを用いるN-無置換インドールのC3位選択的C-Hアリール化の開発を行い、得られた成果を論文として発表した。 これらの合成や反応は、DHTP以外の他の配位子を用いる反応の結果との比較を行い、基質捕捉型配位子DHTPを用いることで初めて可能となるものであることも示すことができた。 加えて、クロロアレーンを用いるN-無置換インドールのC3位選択的C-Hアリール化の検討結果を基に、インドール以外の基質を用いる反応についても検討を行ったところ、他の基質においても位置選択的に反応が進行する例を見出した。平成30年度には、これらの反応についてより詳細に検討を行っていく予定である。 また新規配位子の開発においては、新たにチオフェン環を有するDHTP類縁体を合成した。合成した配位子を用いて様々な反応を行ったところ、DHTPやこれまでに合成したナフタレン環を有するDHTP類縁体とは異なる反応性・位置選択性を示すことが明らかとなった。平成30年度には、これらの反応についてさらに詳細に検討を行っていく予定である。 一方、これらの反応の機構解明については、NMRや質量分析による中間体の検出の難しさから目立った成果が得られなかった。今後、反応中間体を検出するためにさらなる工夫と検討が必要であると考えている。
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