はじめに、フタラン誘導体に対する酸化/付加環化連続反応の基質適用範囲を調べた。各種化合物を調製して反応を行った結果、求ジエン部の置換基や芳香環上の置換様式が異なる基質に対しては適用可能であったが、テザー部の炭素数が5の基質だけは分解するのみで、目的とする7員環化合物は得られないことが分かった。また、テザー部に置換基がない場合には収率は中程度にとどまり、Thorpe-Ingold効果の重要性が明らかとなった。 以上の結果を踏まえ、本連続反応の有用性を示すべく、天然物の全合成研究を開始した。本年度はモルヒナンアルカロイドの合成を目指すことにした。ニトロ基を求ジエン部に導入したフタラン誘導体を調製して連続反応を行ったところ、この場合にも完璧なエンド選択性、良好な収率で目的の四環性化合物が得られた。生成物に特徴的な酸素架橋環の開環法を種々検討した結果、アリルトリメチルシラン存在下でルイス酸を作用させると望みの位置で炭素-酸素結合の開裂が起こることを見出し、第四級炭素を構築できることが分かった。二重結合を酸化的に開裂するとニトロ基由来の窒素原子との間でヘミアミナールが形成された。そのヘミアミナールの還元を行ったところ、同時にベンジル位のアルコールも還元されることが分かり、モルヒナンアルカロイドの全炭素骨格を持つ四環性化合物が得られた。その化合物に対して3工程の変換を行ってGatesらの中間体に導き、モルヒネの形式全合成を達成することができた。
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