昨年度までにモルヒネの形式全合成を達成したが、ラセミ体での合成にとどまっていた。そこで、光学活性体を合成すべく、不斉合成法の検討に着手した。合成中間体としていたラセミ体のアルデヒドに対して不斉アリル化反応を適用してみたところ、光学分割が効率的に起こり、高い鏡像異性体過剰率でホモアリルアルコールが得られた。生じた水酸基を保護し、二重結合をヒドロホウ素化してから酸化すれば、光学活性な合成中間体が得られることになる。 ハスバナンアルカロイドの合成に関しては、δオピオイド受容体に強力に結合することが報告されているロンガニンを標的分子と定め、酸化/付加環化連続反応の基質調製法の見直しを行った。最終的に脱保護するフェノール性水酸基をベンジル基で保護したアルデヒドを調製し、メトキシ酢酸メチルを用いてアルドール反応による増炭を試みたところ、エノラート生成にLDAを用いると天然物と同一の立体配置を持つアンチ生成物が、ジブチルボロントリフラートを用いるとシン生成物が、それぞれ優先的に得られることが分かった。ジアステレオマーを分離した後、生じた水酸基を保護し、メチルエステルを還元した。得られたアルデヒドに対するニトロエタノールの付加は立体選択的に進行し、第一級水酸基を選択的にピバロイル化してから第二級水酸基をシリル基で保護し、塩基処理してピバリン酸を脱離させることでニトロアルケンを合成した。同様にC6位、C13位の立体化学が異なる基質を得た。酸化/付加環化連続反応を行ったところ、C6位置換基の立体化学は重要なことが明らかとなり、望みの異性体を立体選択的に得ることができた。
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