研究課題/領域番号 |
17K08217
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
山本 大介 北里大学, 薬学部, 講師 (10509970)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 大気中の酸素分子 / マンガン錯体 / リン原子 / ホーナー・ワズワース・エモンズ試薬 / オキソホスホリル化反応 |
研究実績の概要 |
化学工業プロセスの多くの部分を占める酸化反応において、所望の反応を円滑に進行させるためには当量以上の無機酸化物や有機酸化物を酸化剤として利用する必要があること、さらには酸化剤由来の廃棄物が生成物以上排出してしまうことは、解決すべき喫緊の課題である。こうした背景のもと、我々は従来の酸化剤を利用した酸化的分子変換法からの脱却を目指し、大気中の酸素分子を酸素源として用いる分子変換技術の開発に取り組んでいる。その過程においてマンガン錯体に高い酸素分子付加能力が備わっていることを明らかにしており、これまで、ヒドロキシルアミン類の付加を伴う過酸化物合成法、β,γ-不飽和オキシムからのジヒドロイソオキサゾリルメタノール構造構築法を報告している。そこで筆者は、更なる酸化的分子変換法の開発を指向し、β-ケトホスホナート合成法に着目した。 β-ケトホスホナートはホーナー・ワズワース・エモンズ試薬として知られる有用なビルディング・ブロックであるばかりではなく、様々な生物活性を示すβ-アミノホスホン酸の合成前駆体であるとともに、高い錯形成能に基づく金属イオン抽出剤として利用されている多様な機能を持つ分子種である。しかしながら、その合成法はアルブゾフ反応やアルキルホスホナートのアシル化反応による限定的な報告例に限られていた。 以上示した経緯を踏まえ、今回、我々がこれまで得てきた知見をもとに、オレフィン分子とジエチルホスファイトからの直接的なβ-ケトホスホナート合成法を開発することを目指し、研究を行った結果、大気中の酸素分子を酸素源として利用した触媒的オキソホスホリル化反応を開発することに成功し、未だ基質限定的ではあるものの新たなβ-ケトホスホナート合成法を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず我々は研究の端緒となる結果を得るため、反応基質としてt-ブチルスチレンを、また、リン源としてジエチルホスファイトを用いて、種々、反応条件を検討した。その結果、これまで我々が得てきた知見と同様、マンガン錯体によって炭素―リン結合形成反応が進行することが明らかとなった。しかしながら、所望のβ-オキソホスホナートを与えるのみならず、副次的な反応も進行してしまい、β-ヒドロキシホスホナートの副生も観察された。そこで我々は適切な反応条件の探索を目指し、詳細な検討を行うこととした。その結果、塩基としてピリジンを用いた場合に、副次的な反応を完全に抑制できることを見出し、所望のβ-オキソホスホナートのみが形成されることを明らかにした。 我々が見出した反応条件は、非共役型のアルケンを基質とした場合では、生成物の収率は低下するものの、スチレン誘導体では比較的良好に進行することが明らかとなった。また、本条件は、空気中、塩基性条件と比較的温和な条件であることから、これまでの類似のオキソホスホリル化反応では用いられていなかったビニルエーテル誘導体に対しても適用可能であり、種々のホスホリルアセタート合成法も可能であった。 本反応は触媒量の更なる低減が求められるものの、大気中の酸素分子を用いたマンガン錯体による触媒的オキソホスホリル化反応の初めての例となる。
|
今後の研究の推進方策 |
我々はこれまで一貫して行ってきた酸化的分子変換法の開発研究を通じて、ヒドロキシルアミン類やオキシムなどの酸素-水素結合のみならず、リン-水素結合に対してもマンガン錯体は有効であり、大気中の酸素分子の固定化を伴う分子変換法が可能であるという知見を得ることができた。また、マンガン錯体は他の金属錯体に比べ、非常に高い触媒活性を有していることも明らかにした。以上を踏まえ、他の官能基に対しても適用可能な反応条件の検討のみならず、より多彩な機能を有するマンガン錯体を創製することが可能となれば、これまで不可能であった、または、その合成に多工程が必要であった化合物群の効率的な合成が可能になると期待できる。 以上より、今後、新規マンガン錯体を創製し、大気中の酸素分子を酸素源として用いる新たな酸化的分子変換法の開発を行っていく予定である。
|