研究課題
近年の超分子化学の発展により、様々な機能性集積体が生み出されてきた。しかし、有機化学反応、特にアミドやリン酸エステルの加水分解など基本的反応の触媒は未開拓である。その主な理由は、i)酵素のように、反応中心において一定の間隔で酸と塩基を配置する設計が困難である事、iI)反応の遷移状態の安定化が困難である事、iii)従来の触媒例では金属イオンの第一配位圏の再現だけにとどまっていて、酵素の活性中心周囲(外圏)のアミノ酸などを、三次元的かつ適切に配置できていない事、iv) 上記の条件を満たす構造を、共有結合だけで構築するのは困難である事、などである。本研究の目的は、これらの課題を克服するために、様々な官能基をもつ分子ブロックを短時間で多数合成し、溶液中で様々な分子やイオンと混合するだけで多様な三次元的活性中心を構築することである。同時に、反応場(単層系、液―液二相系など)を含めた触媒システムの設計を行っている。これまでに、二本の長鎖アルキル基を導入した二核亜鉛錯体(Zn2L3)を合成し、Bar誘導体とCu2+との自己集積体を生成して、二層系溶媒中におけるリン酸モノエステル(MNP)の加水分解を検討した。しかしながら、この超分子は殆ど触媒回転活性を示さなかった。この原因は、この超分子の疎水性が強く、ほぼ有機相(CHCl3, ClCH2CH2Cl)に存在し、界面における存在比が低いためであると考えた。そこで、長鎖アルキル基の数を一つにすることによって、非対称化された超分子を合成し、二層系溶媒中でのNMP加水分解を行った。そしてMichaelis-Menten速度論に基づいて解析した。超分子が二層系溶媒中で、水中、有機溶媒中、界面のどこに局在しているのかを、UV/Vis吸収および発光スペクトル、DLSなどで検討し、超分子の疎水性/親水性のバランスが触媒回転に重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度に合成した二核亜鉛錯体とバルビタール誘導体、銅イオンの2:2:2自己集積体が、長鎖アルキル基の数を一つにすることによって、水層/有機層の二相系溶媒中でNMPを触媒的に加水分解する超分子を発見した。バルビタール誘導体に疎水性基やアミノ酸誘導体を導入することにも成功し、MNP加水分解をMichaelis-Menten速度論に基づいて解析した。超分子超分子の疎水性/親水性のバランスが触媒回転に重要であることが示唆された。このことは、酵素の触媒回転のメカニズムの理解にも重要であると考えている。
上記「研究実績の概要」項で述べた、新しい2:2:2自己集積体の触媒活性をさらに向上する。バルビタールの側鎖に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、グアニジウム基をもつアミノ酸を導入し、二核亜鉛錯体とバルビタール誘導体(+銅イオン)の組み合わせのバリエーションを飛躍的に増やすことによって、二核亜鉛錯体との様々な組み合わせによる自己集積体のMNPおよびエステルやアミドの加水分解活性を検討する。またエステル、アミドの加水分解反応やリン酸基転位反応への応用を検討する。
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