研究課題/領域番号 |
17K08232
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
瀧本 真徳 国立研究開発法人理化学研究所, 侯有機金属化学研究室, 専任研究員 (50312377)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カルボ亜鉛化 / C-Hメタル化 / 銅触媒 / 希土類触媒 / アレナミド / イナミド / ピリジン類 / 多成分付加反応 |
研究実績の概要 |
含窒素有機化合物は生物活性物質や生体機能分子として広く存在し、医薬品などの合成中間体としても重要な化合物群である。本研究では、窒素官能基を持つ新しい有機亜鉛試薬、有機アルミニウム試剤(後周期典型金属元素活性種)の調製法と、それら反応活性種と基質との炭素―炭素結合を連続して行なうことにより含窒素有機化合物を効率的に合成する手法を開発することを目的として研究を進めている。本年度の研究では、本研究代表者が見いだし、報告している銅触媒を用いるアレナミドと有機亜鉛試薬、二酸化炭素の三成分付加アルキル化-カルボキシル化反応において、その鍵反応であると考えられているアレナミドのカルボ亜鉛化反応について詳細に検討し、二酸化炭素以外の求電子試薬とのカップリング反応へと展開することを試みた。その結果、興味深い知見を見いだした。まず、NHC銅触媒の存在下、ジエチル亜鉛によるアレナミドのカルボ亜鉛化反応をおこなったところ、幾つかの基質においてカルボ亜鉛化単独では進行が非常に遅いことがわかった。一方、これらの基質は、対応するアルキル化-カルボキシル化反応において良好な収率を与え、また二酸化炭素雰囲気下では原料は比較的速やかに反応中間体であるビニル亜鉛種に変換されており、カルボ亜鉛化反応を加速する未知の要素が存在することが示唆された。そこで、反応系を詳細に検討した結果、触媒量(15 mol%)のパラホルムアルデヒドを反応系に共存させると、反応機構は不明ながら、目的とするアレナミドのカルボ亜鉛化反応がいずれの基質においても緩和な条件下、速やかに進行することを見いだした。このようにして調製したビニル亜鉛種は、予備的実験として、幾つかの炭素求電子剤との反応を試した結果、炭素-炭素結合形成に利用することが可能であり、従来の方法では合成困難な多置換エナミドが収率良く合成できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)代表者が独自に開発した銅触媒によるイナミド、アレナミドのアルキル化-カルボキシル化反応における鍵素応であるカルボ亜鉛化反応を基盤とした含窒素有機物の新しい合成反応の開発、(2)希土類触媒による含窒素化合物の位置選択的C-Hメタル化とそれを利用した官能基化反応、炭素-炭素結合反応の開発を進めることを計画している。本年度はまず、研究(1)においてアレナミドのカルボ亜鉛化反応過程について詳細な検討を進めた結果、当初の予想とは異なり、従来のアルキル化-カルボキシル化で適用した反応条件が目的とする反応過程にそのまま適用できない、という課題が生じた。そこでアレナミドのカルボ亜鉛化反応について改めて詳細に検討をおこなった結果、その詳細な機構は不明ながら触媒量のパラホルムアルデヒドの添加という、より適した反応条件を見いだし、また、本法で生成した含窒素有機亜鉛種が幾つかの炭素求核剤と反応可能なことを見いだすことが出来た。これは目的とする含窒素有機物の新しい合成反応の開発に向けた重要な成果である。 一方、研究(2)においては、メチルピリジンの部分骨格を有する三環性ピリジン誘導体としてオクタハイドロアクリジンを基質として、希土類触媒によるC-Hメタル化の基礎的実験をおこなった結果、希土類触媒としてハーフサンドイッチ型イットリウムビスアルキル触媒、メタル化剤としてトリイソブチルアルミニウムを用いるとベンジル位C-Hアルミ化がトルエン中にて進行することがわかった。また生成したアルミ種は銅触媒存在下、臭化アリルと反応し、対応するアリル化体を高収率で与えることを見いだした。本結果も目的とする含窒素有機物の新しい合成反応の開発に繋がりうる重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
アレナミドのカルボ亜鉛化反応を基盤とした含窒素有機物の新しい合成反応の開発においては、現在実現できている逐次型カップリング反応において、基質とカップリングパートナーの適用範囲の拡大を進め、多置換エナミド類の新規合成手法としての確率を目指す。また、カルボ亜鉛化におけるパラホルムアルデヒドの添加効果については、その作用機構の解明に向けた反応機構解析を進める。さらに、本効果はイナミドにも適用可能と推測されることから、イナミドのカルボ亜鉛化反応を基盤とした含窒素有機物の新しい合成反応の開発にむけて、その鍵となるカルボ亜鉛化反応の詳細な検討を改めておこなう。また、当初の目的に従いイナミドを基質とする新規炭素-炭素結合形成手法の開発を進める。 一方、希土類触媒による含窒素化合物の位置選択的C-Hメタル化とそれを利用した官能基化反応の開発では、本年度見いだした反応条件をもとに、基質の適用範囲の拡大と、官能基化、炭素-炭素結合形成反応への展開を詳細に検討し、新規合成手法としての確立を目指す。
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