研究課題/領域番号 |
17K08240
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
山口 佳宏 熊本大学, 環境安全センター, 准教授 (10363524)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酵素 / 蛋白質 / 薬剤耐性菌 / 阻害剤 / 構造機能解析 |
研究実績の概要 |
メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)は、ほとんどすべてのβ-ラクタム剤を加水分解酵素であり、この酵素を発現する細菌は薬剤耐性菌として、臨床の現場で問題となっている。MBLのIMP-1酵素は日本でよく単離されており、そのアミノ酸一変異体であるIMP-6も日本で単離されている。IMP-6産生菌の問題点は、既存のMBL検出薬では偽陰性を示すことであり、本研究は一アミノ酸の変異によって与える影響を物理化学的手法を用いて解析することである。 IMP-6の大量発現と精製はできており、結晶化、蛋白質X線結晶構造解析もできている。平成29年度は、IMP-6とMBL検出薬との複合体の結晶化を行った。その結果、IMP-1とIMP-6の両酵素に有効な阻害化合物について、IMP-6との複合体を調製して結晶化することができた。ただ結晶の大きさが小さく、調製できた結晶の数が1ドロップの中で多かったことから、IMP-6-阻害化合物の結晶のハンドリングが難しかった。そのため、放射光施設Photon Factoryにおいて、この結晶のX線回折データを収集することができなかった。 今後は、IMP-1およびIMP-6酵素の結晶化を行い、X線回折データが得られる結晶を得る。また大量に調製できるIMP-6を使い、X線小角散乱、示差走査熱量計(DSC)を使って、IMP-1とIMP-6との物性的特徴付け、Zn(II)イオン解離速度による活性中心にあるZn(II)イオンの溶液中の動向、両酵素と阻害化合物の阻害様式の解析を行う。この研究結果は、IMP-6酵素に対する阻害化合物を開発し、偽陰性を起こさないMBL検出薬を開発することである。さらに、これらの成果はMBL阻害剤の開発につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IMP-6酵素の大量調製は確立しており、IMP-1酵素の大量調製もすでに確立していたことから、両酵素を比較した研究を行うことを可能としている。特に、両酵素の結晶化および蛋白質X線結晶構造解析も行っており、精製純度が非常に高く、大量の酵素を要する物理化学的研究を行える状態にある。 H29年度は、IMP-酵素およびIMP-6酵素の大量調製を行い、両酵素の結晶化と、両酵素を阻害する化合物の複合体の結晶化を行った。IMP-1結晶およびIMP-6結晶の調製はできた。また両酵素-阻害化合物複合体の結晶化は、IMP-6では微結晶を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
IMP-1およびIMP-6両酵素の結晶化が行えるまで高純度で大量に調製することができた。熊本大学にはX線小角散乱、示差走査熱量計(DSC)の設備があり、IMP-1およびIMP-6両酵素について、それぞれの分析機器を使って溶液中の構造比較を行う。予想される得られる結果としては、X線小角散乱によって、溶液中の全体構造の粒径に違いがあり、さらにDSCによって熱安定性に違いがあると考えている。これが一アミノ酸による影響であることを証明したい。 IMP-1とIMP-6両酵素の違いは、活性中心近傍の一アミノ酸が変異していることである。このことで、IMP-1に結合できる化合物がIMP-6にはあまり結合できないことがわかっている。この仮説として、両酵素は活性中心に2つのZn(II)イオンがあるが、そのZn(II)イオンに配位しているリガンドアミノ酸に影響を与えていると考えている。そのためキレート剤によって、活性中心のZn(II)イオンを脱離させ、その際の活性の低下によりZn(II)イオン脱離速度を求めることができる。この結果によって、脱離速度に違いがある場合は、活性中心のZn(II)イオンの状態が、阻害剤結合に影響を与えていることになる。 これらの研究成果は、IMP-6酵素に対する阻害化合物の開発に役立ち、MBL検出薬の偽陰性を解消できるものになる。またMBLに対する阻害剤開発に有効なデータを得ることができる。このことは薬剤耐性菌に対する抗菌薬開発にも役立つ。
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